第6話「おやつ係は、ひらめいた!(2)」
インターネットを作ろうという私の提案に、大量の “?” を浮かべたヴィッテ。首をかしげたままスライに質問する。
「ねぇスライ、『インターネット』って なに?」
少し間があってから、スライの体に文字が表示された。
・・・・
>私の知識に存在しません。
・・・・
「わぁ、 スライが しらないって めずらしいね!」
・・・・
>
>
>……不本意。
・・・・
それまでふよふよ動きながらヴィッテと会話していたはずのスライ。だがこの言葉を表示した途端に黙り込み、縮こまって動かなくなってしまった。
な、なんか
気まずくなった私は慌てて説明をはじめる。
「えっと、私の住んでた所だけで使われてる技術だから知らなくても無理ないと思うっ。む、むしろ知ってたらびっくりしちゃうから! インターネットってのは、簡単に言うと『遠くに離れた人と
・・・・
>成る程。呼び名が異なるのみで、単なる通信手段の一種ですか。
・・・・
あ、スライが動き出した。
機嫌を直してくれたっぽくて一安心。
・・・・
>そのようなものを作っても意味はありません。
>ヒトの社会には、既に浸透した遠距離通信手段が存在します。
・・・・
「え? ここにもネットみたいな仕組みがあるの?」
・・・・
>そんな事もご存じないとは!
>
>現在、ヒト社会に浸透する遠距離通信手段には『ギルド便』と『個別輸送』が存在します。
>
>個別輸送は、馬車や船等を用いて個別に輸送を行う仕組みです。輸送人員の個別確保費用が高額で、権力や富の持ち主でないと利用は厳しいでしょう。
>
>ギルド便は、冒険者ギルドがとりまとめ封書や荷物を輸送する仕組みです。定期的にまとめて輸送するため安価ですが、個人輸送に比べ輸送時間がかかります。一般に広く利用されるのはギルド便です。
>
>ヒトの社会では、子供でも有しているはずの知識ですよ?
・・・・
「へぇ……そんなシステムがあるんだ」
人を直接雇って運ばせるのが『個別輸送』で、郵便や宅配便的な仕組みが『ギルド便』ってわけね。スライの言葉にトゲがあるのは気になるけど、まぁ機嫌が直っただけ良しとしよう。
「でも『個別輸送』とか『ギルド便』とかって時間かかるでしょ? それと違ってインターネットはパパッと
・・・・
>確かにそのような仕組みは、ヒトの社会には存在しません。
>現状の通信は全て物理的に移動し輸送する手段のみであり、到着までに相応の輸送時間が必要です。
・・・・
「だったら私たちがインターネットを作ろうよ! ネットが発達して世界中に広まれば、ヴィッテちゃんの理想のおうちも探しやすくなるし、その『1人目のおやつ係』って人も見つかりやすくなると思うんだ」
「ほんと⁈」
ヴィッテの顔がぱぁっと明るくなる。
・・・・
>お待ちください。
>
>仮に『インターネット』という通信手段が発展し、ヒトの社会に浸透したとしましょう。
>ですがその通信手段の発展と、ヴィテッロ様の『新居探し』および『おやつ係の捜索』に関連があるとでも言いたいのですか?
・・・・
「うん、探したいものがあったら、人でも家でもネットで検索すれば割とすぐ見つかることが多いんだ! まずインターネットってのは……」
私はインターネットについて、じっくり腰を据えて説明することにした。
***
「うわぁ~、インターネットって おもしろいのね♪」
説明が終わる頃には、ヴィッテは目を輝かせていた。私が描いたパソコン・スマホのイラストや、ネットワークのイメージ図などを見比べては楽しそうに1人はしゃいでいる。
そして時々考えこみつつも、
・・・・
>瞬時の情報送受信が可能な『
>
>全てのヒトが『発信者』であり、同時に『閲覧者』にも成り得る仕組み。しかもその情報の送信や取得は非常に簡単に、しかも即座の実行が可能。
>ネットワークが広がるほどその情報は膨大となり、必要情報の瞬時取得も可能となる……もし本当に実現できるならば、ヴィテッロ様の求む情報の探索も可能となるでしょう。
・・・・
「でしょ! インターネットが広がれば、とても便利になると思うんだ」
・・・・
>ですが本当に上手くいくのでしょうか?
>マキリの話は夢物語であり、実現は厳しいと言わざるを得ません。
・・・・
「夢物語じゃないよ。だって私が住んでた所ではインターネットが無い生活なんて考えられないぐらい、みんながネットを使ってたもの!」
・・・・
>それは『本当にインターネットを普及出来たら』という仮定の話に過ぎません。
>私はそもそもネットという仕組みの
>
>ではまずお聞きしますが、マキリはネットワークを構成する『
・・・・
「そこは、スライに分裂してもらえばOK」
一瞬スライが固まり、そして答えを表示した。
・・・・
>
>
>……マキリの発言、理解不能。
>
>どのような思考でその結論に至ったのですか?
・・・・
「えっと、スライの本体と分裂体同士は離れていてもリアルタイムで情報共有できるんだよね。だからスライと分裂体に『
・・・・
>成る程、完全に私の技能を当てにしているわけですね。
・・・・
「うっ……まぁ、そうなっちゃうね」
しばしの沈黙。
声も表情も分からないはずなのに、スライが呆れているのがひしひしと伝わってくるような気がする。
・・・・
>……思うところはありますが、一旦は話を先に進めましょう。
>
>私が安定して維持可能な分裂体は100体程度です。その程度の少数個体では『インターネット』という広大な仕組みにはほど遠いと考えます。
>この状況で、どのようにしてネットワークを拡大するつもりでしょうか?
・・・・
「他のスライムに協力してもらうつもり」
・・・・
>確かにその方法ならば理論上は『インターネット』の実現は可能……。
>
>ですがいくら仕組みを実現可能でも、それを普及できなければ意味はありません。世界の諸事情を鑑みて総合的に判断した結果、ヒトの社会への普及は困難ではないかと考えて――
・・・・
「ねぇ、つくろうよ インターネット! スライなら やれば できるでしょ?」
スライの言葉を遮ったのはヴィッテ。
・・・・
>ヴィテッロ様⁈
>確かに私の優れた頭脳をもってすれば、ヒトの社会への普及は不可能ではありません。
>
>ですが仮にインターネットが普及した場合、ヒトの社会における情報の在り方が一変するはず。そうなれば――
・・・・
「だいじょうぶよっ! うちのスライは すごいんだもの、きっと うまく いくわ。それに あたし、インターネット つかってみたいなぁ……ねぇ、いいでしょ?」
スライは少し考え、そして表示した。
・・・・
>……承知いたしました。
>ヴィテッロ様のご期待に添えるよう、精一杯努めてまいります。
・・・・
「わぁい! スライだいすきっ!」
とスライに抱きつくヴィッテは、無邪気な顔で笑った。
***
そのあとインターネットについて私に根掘り葉掘り興味深く質問していたヴィッテだったが、しばらく経つと眠ってしまった。食卓で寝かせるままにするのは忍びなかったので、スライと相談し、2階のベッドへ運ぶことに。
その体はとても軽く、ヴィッテはまだまだ幼いんだなぁと改めて実感。こんなに小さい子が親と死に別れて旅をしてたなんて……。
……やっぱり何か力になりたいなぁ。
といっても私自身、まだまだこの世界での暮らしは不安定だし、出来る範囲にはなっちゃうけれど。
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