チャットに占い師がやってきた
僕がニートを放牧しているチャット(以下、OK TALKと呼ぶ )は、「お気楽チャット」という数年前に閉鎖したチャットサイトを踏襲している。なにか特別な機能のあるチャットサイトではないのだけど、常連の間では「お気楽チャットの復刻版」として一定の認知を得ている。その常連の一人、EがOK TALKにやってきた。彼は四柱推命や六星占術的な占いの知識が豊富で、生年月日を教えるとチャット上で占いをしてくれる便利な男なのだ。
そして、Nの天敵でもある。
Eもまた、Twitterを使わずにチャット上で独り言を無限に呟くタイプの男だ。その内容は常人には意味不明だ。成功者・芸能人を対象に占いを行い膨大な量の占い結果を延々と垂れ流すのだ。どうやらNにとってはそれが不快らしい。「俺のサンクチュアリを汚すなや!」という名言をNが言い放った時には言い知れぬ笑いが込み上げてきた。僕の用意したチャットが、彼にとってサンクチュアリにまで昇華していたことがシンプルに嬉しかった。ちなみに計測してみたところ、Eの占いは一晩で1000行、平均して20秒に1回の発言が6時間にわたり繰り返されていた。前置きが長くなったが、今回はNとEを比較する形で「不幸になる人の特徴」について考えていきたい。
僕の中では、Eは不幸の象徴である。
それはEが満たされない欲求を常に抱えているからに他ならない。「どうにでもなれ主義」のNと比較するとそれは更に顕著だ。Eには、長年恋焦がれている「R」という女の子がいる。10年以上前にチャット上で出会った女の子で、「RがOK TALKに現れるかもしれない」という淡い期待を抱いて足を運んでは、ひとりで占いをしながら時間を潰しているのである。忠犬ハチ公さながらであるが、Eの想いは半端ではない。Rの住んでいる県まで引っ越してしまうほどに、「Rじゃなきゃヤダ」というこだわりが強いのである。占いも含めたEのこうした異常とも言える性癖はさておき、Rにこだわらなければ他の素敵な女性と結ばれるチャンスはあったように思う。
さて、皆さんはRがチャットに戻ってくる可能性はあると思うだろうか。仮にRがチャットに戻ってきたとして、EがRと結ばれる可能性はあると思うだろうか。ゼロとは言い切れないが、個人的には限りなくゼロに近いと思う。
この「可能性はゼロではない」という呪文は、人間を「期待」という泥沼へと引きずり込む。Eのケースは、その極致ともいえるかもしれない。「Rじゃなきゃヤダ」を原動力にして、この10年間で彼がやったことはチャットで待ち呆けながら占いを続けたことだけだ。今年の秋頃に炎上した某心理学系Youtuberは「10年間、全く同じことを続けた経験を、10年の経験とは呼ばない」と主張している。同じことを繰り返すのではなく、トライアンドエラーによるアップデートを10年続けて成長することが大切なのだという話で、それなりに重要な考え方だと思っている。それを踏まえて客観的にEを見てみると、彼がこの10年で得たものは何もない。
さて、「薄っぺらい可能性に固執する人」として、Eという少し極端な例を見たが、あなたの場合はどうだろうか。「可能性はゼロではない」という呪文に縛られ、諦めきれずにいる夢や目標があるのなら、本質的にはEと同じである。少しだけ冷酷に自分自身を見つめなおす必要があるかもしれない。あるいは今、自分が諦めきれずにいる「期待」を放棄したら、心が少し軽くなることもあるだろう。
一方で、全く期待していない人間がNだ。
彼は競馬をする時を除けば、未来のことはほとんど考えない。それ故に期待がないのだ。期待が無いという事は、落胆するということもない。谷底をあるけば崖から落ちることはないし、職がなければ失業する心配もない。トンチのようだが、一種の無敵状態には違いない。また、Nのもう一つの特徴がぶれない心を持っていることだ。いつだって平常心を保っている。何かに対する怒りや不安を引きずっているわけでもなければ、常に明るくハッピーな状態…というわけでもない。基本は無だ。良いことがあれば、気持ちはプラスに。悪いことがあれば、気持ちはマイナスに動く。そしてすぐにゼロに戻るのだ。Nを見ていると、大事なのは良いことも悪いことも「引きずらない」という事にあると感じさせられる。常に、「今」の出来事に対しての感情で生きており、「あの時違う馬券を買っていれば」のような後悔は一切残さない。結果は結果だ。要するに、Nはいつだってニュートラルなのだ。(ちなみに「N」はニートのNでもなければ、ニュートラルのNでもない、彼の初期のハンドルネームの頭文字だ。)
「何もしなくても常にハッピーです」という人には、ハッキリ言って今回の内容は参考にならなかったと思う。ただ、常に不幸感や不安に苛まれている人は、Eを反面教師にし、Nの「諦め」と「期待しない術」を参考にすると、何かが好転することもあるだろう。
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