第15話 ざまぁ
「おうジーク! 喜べ。今日はどぶさらいする場所がないぞ」
ギルドに戻った俺に、おっさんが言った。
そんな露骨に『俺は
「そうか。俺からもおっさんに吉報がひとつと、悲報がふたつあるんだ」
「なんで悲報の方が多いんだよ……」
「悲報ひとつ目は吉報があるってのが嘘ってこと」
「希望を潰やすんじゃねえよ!」
いやいや。
こんなんなんぼあってもいいですからね。
「なーんてな。本当はいい報せしかねえよ」
背後で扉が、銃撃のような音を立てて開け放たれる。
振り返るとそこに、朝日を浴びて立つ人がいた。
フードを目深にかぶり、丈の長い魔法装束に身を包んだその女性の名は、ミラベル。
「な、なんで、どうしてお前がそこに……」
「どうしてってのは、私のことかしら? それとも、こっちの冒険者もどきのことかしら?」
「ル、ルメートル⁉」
ミラベルの後ろから、一人の冒険者が突き出される。俺がこの前ボロボロにされたB級冒険者だった。
「ルメートル、何をしている! 貴様、まさか敗れたのか⁉ こんな小童どもに⁉」
「あれあれ? おっさん。どうしてルメートルが俺たちと戦ったって思ったんだ?」
「は? そ、それは、その、ええい! そんなことはどうだっていいだろう!」
突き出されたルメートルに外傷はない。
当然だ。
*
「わかった! 俺の負けでいい! 言う! 言うから! 全部話すから‼」
あれから、下水道を抜けてから。
俺とミラベルは、彼女の魔力感知を頼りに排水路を崩壊させた実行犯を見つけ出した。
それから先は簡単だ。
――――――――――――――――――――
【SUMMONS;天雷剣神スライムA】
【SUMMONS;天雷剣神スライムB】
【SUMMONS;天雷剣神スライムC】
【SUMMONS;天雷剣神スライムD】
Lv48
――――――――――――――――――――
Activation
【Link;スキル】
└【Port;2】―【Element;ウィンド】
└【Skill;分身】―【Element;ソード】
【Link;スキル】
└【Port;2】―【Element;ウィンド】
└【Skill;分身】―【Element;ソード】
【Link;スキル】
└【Port;2】―【Element;ウィンド】
└【Skill;分身】―【Element;ソード】
【Link;スキル】
└【Port;2】―【Element;ウィンド】
└【Skill;分身】―【Element;ソード】
Unique
【Skill;神眼】
【Skill;神級剣術】
【Skill;天雷魔法】
【Skill;雷神化】
――――――――――――――――――――
召喚されたスライム自身がスライムを召喚。
俺が地下水路で見つけたこの仕様の穴ともいえる『スライム
要するに、同じ種類のスライムしか召喚できない代わりに、召喚できる個体数に上限は無いということだ。
そしてElementは重複すればするほど強くなる。
そうしてスライムが4匹になった時の能力は、剣神のさらに上位職と呼ばれる『天雷剣神』と同じもの。
おい見てるか。
俺を見下したどうしようもねえクズやろうども。
お前らが最弱と見限った『スライム
*
「俺は脅されただけなんだ! 信じてくれよ!」
「ルメートル! テメエ裏切る気か!」
「ハッ! 誰が貴様と心中なんてするもんかよ‼」
そんなわけで。
今はルメートルとおっさんで醜く罪のなすりあいをしている。
「今まで面倒見てやったのは誰だと思ってる‼ 実力はC級のテメエがB級になれたのは誰のおかげだ!」
「おいおい、俺の実力に決まってるだろ」
「ふざけるなッ!」
「それともなんだ? 昇級試験の結果を改ざんして一冒険者を不正昇級させましたとでも?」
「ぐっ……テメエ‼」
そう。
このルメートルという冒険者がおっさんに頭が上がらなかったのは、B級試験の際に裏取引をしたかららしい。
それを弱みに握られて、これまでずっと従わされ続けてきたのだと。
だから、今回の件はルメートルにとっても、おっさんの支配から脱却するチャンスだったわけだ。
「
ん?
今、なんて言ったのかなぁ?
「あれれー。おっかしいぞー。どうしておっさんの口から
「――ッ!」
おっさんの顔がゆがむ。
「しかも、その気になれば
「ち、ちがっ、今のは……そう! 例え! 例え話だよ」
「へえ? でもな、おっさん。いるんだよ。おっさんが怪しい人物と密会しているのを目撃した人が。このギルドの中に」
「は⁉」
俺は自信たっぷりに笑みを浮かべて、受付のカウンターに頬杖を突いた。
「……だ」
「ん? いいわけでも思いついたか? おっさん」
「どこのどいつだッ! そいつをここに連れてこい! 道連れにしてやるッ!」
おっさんは、いよいよ恐ろしいほどの剣幕で俺に顔を突き付けてきた。
その様子がおかしくて、おかしくて。
つい、笑っちまった。
「く、っはは。あはははは!」
「何がおかしいッ‼」
「おかしいさ。だって、そんな証人どこにもいねえんだからな」
「……は?」
そう。
俺たちは地下水路から出て、ルメートルを捕まえて、その足でギルドまで来た。
それ以上の証拠を集める時間なんてなかった。
「おっさん。殺人者だと知って匿うのは大罪だぜ?」
ハッタリだよ。
「……だましたのか」
「いいやぁ? おっさんが自分から罠にかかりに行っただけだぜ」
「貴様ぁッ‼」
「【雷神化】」
「ぐぎゃあああぁぁぁぁっ⁉」
殴りかかってきたおっさんに、俺はただ雷をまとって立ち尽くした。
迸る雷の防御壁に阻まれて、おっさんは意識を失った。
「そういえば、いい報せが何か、まだ言ってなかったな」
電流を浴びて、膝から崩れ落ちたおっさんに声をかける。
「終わりだよ。ギルド職員としての人生も、積み上げてきた功績もな」
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