たぬきの食後も思い出に
他山小石
第1話
「ちょっとこれは近すぎじゃないかな」
「適切な距離感だよ」
幼なじみの千代ちゃんと付き合い始めて2ヶ月目。休日に昼食を一緒にとるのも幼い頃から同じだが、今日は右隣、密着し体温を感じる。
千代ちゃんは女の子の中では少し身長が高い。僕は高校生の割に低めなので寄りかかられると体が包まれるからような心地になる。
空になった緑のたぬきのカップを前に、僕たちはぼんやりすごしていた。
「ねえ何で赤いきつねと緑のたぬきって言うんだろうね」
昔から物知りだった千代ちゃんに何となく聞いてみた。
「ああ簡単なことだよ、キツネといえば稲荷神社。その鳥居は何色かな?」
「朱色?」
「正解だ、そのイメージカラーが使われたのさ」
へえ、いろんなこと知ってるんだね。
「狸は?」
少しだけ、頭を動かしたのか、長くてきれいな髪が僕の右隣からさらりと流れた。
「君はこんな話を聞いたことないかい?」
ある村に一匹のタヌキがおった。
ケガをしたとき優しい男に救われて、男のいる集落のことを好いていた。
山の上の集落は水源がなく稲があまり育たなかった。
それでも年貢の取り立ては厳しかった。大飢饉が起きた年ついに若者たちは一揆の相談をしようと集まっていた。
「待たれよ、皆が死に急ぐことはない。わしが一人で行こう」
一揆に関われば皆が死罪になるかもしれない。
一人だけ直訴に行くことを決めた男。村の年貢は軽くなったが、この地方では直訴は犯罪であった。死罪を言い渡される。
タヌキは思い出した。男は人だけでなく獣にもやさしかった。幼いころ助けてくれた。
男を失ってはいけない。
妖力を使い、村を緑で覆った。竹、葛、笹が覆う。
役人はとうとう村までたどり着かなかった。
何年も、何年も、役人がくれば緑で村を隠して、男を守り続けたタヌキはついに力尽きた。
緑の中心で石となっていたタヌキをみてすべてを悟った男は、タヌキを祀った。
村では今も、緑のタヌキ祭りを受け継いでいる。
「まぁ全部嘘なんだけどね」
「ぇ……?」
間抜けな声が出てしまった。少し息が揺れてる、絶対笑いをこらえてる感じだよ。
「どこから?」
「全部、鳥居の色からだよ」
ん~、こういうとこあるんだよな。
「ふふ、君はかわいいな。いかがかな? たぬきでなくとも欺くことは容易いのだよ」
目つきが少し悪くてタヌキというよりも?
「ん? もしや狐と疑っているのかな? なら尻尾が生えてるか確かめてみるかね?」
たぬきの食後も思い出に 他山小石 @tayamasan-desu
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