『呪われた聖女』と言われている、私の結婚相手は【ゴブリン伯爵】です
青空あかな
第1話:トリプルパンチ!
「アイカル・カラベッタ。私はお前との婚約を破棄する。“呪われた聖女”と結婚なんて、まっぴらごめんだからな。あぁ、安心してくれ。私はもう、別の愛する女性と婚約しているから」
社交パーティーのさなか、いきなり婚約破棄を告げられた。
告げた主は、私の婚約者、ケイハーク・チャーライ様。
まさか本人の口から言われるなんて、思いもよらなかった。
「あの、ケイハーク様……それはいったい、どういう意味でございますか?」
私は頭が混乱した。
「だから、私はお前と婚約破棄すると言っているんだ。はぁ……言葉の意味も理解できないのか?こんなにバカな女と婚約していたなんて、私は恥ずかしくて仕方がないよ」
ケイハーク様は私の出したお茶など見向きもせず、隣の女性が渡したお茶を飲んでいる。
ニコニコ嬉しそうな私の妹、クヨジアだ。
「うまいっ!クヨジアはお茶を淹れるのも上手だね。彼女はこんなにも素晴らしいのに、お前ときたらなんだ。聖女の家系に生まれながら、動物の病気すら治せない。それどころか、ケガや病気を悪化させるだけではないか。この厄女め」
「お姉さまったら、まだケイハーク様に未練があるの?いい加減に諦めてくださいな。さすが、100年ぶりの“忌み子”は違うわね」
「そ、それは……」
カラベッタ家は、代々『浄化』のスキルを持つ血筋だった。
優秀な聖女、聖人の家系として知られている。
しかしたまに、『不浄』のスキルを持つ子どもが生まれた。
病気を治すどころか、悪くしてしまうのだ。
そういう子は忌み子と呼ばれ、嫌われていた。
この100年ほどは、生まれてこなかったのだが……。
あろうことか、私が100年ぶりの“忌み子”だったのだ。
「アイカル、また二人の邪魔をしているの?」
「ケイハーク様も迷惑しているじゃないか」
ちょうど、父と母がやってきた。
「お父様!お母様!これはどういうことですか!どうしてクヨジアが……!」
「どうしてって、お前のスキルが『不浄』だからに決まってるでしょうよ」
生まれたとき行われる儀式で、私のスキルは『不浄』だと判明した。
その後、両親は大慌てで子作りに励んだらしい。
そうして生まれたのが、クヨジアだ。
しかも、超優秀な『浄化』のスキルを持って。
「まさかあの事件のことを、忘れたわけじゃないだろうな」
ある日、私は自分の体を傷つけて、治せないか試してみた。
どんどん傷が広がり、危うく腕を切り落とすほどだった。
「で、ですが、婚約破棄だなんて……」
カラベッタ家の長女ということで、私はケイハーク様と婚約してもらっている。
“忌み子”と言われても、認められようと必死に頑張ってきた。
「アイカル。全て、お前が悪いんだぞ!クヨジアはカラベッタ家と、チャーライ家を結んでくれたんだ!」
「危うく関係が悪くなりそうだったのを、クヨジアが守ってくれたのですよ!どうしてわからないんですか!」
(そんな……)
お父様とお母様は、名門貴族のチャーライ家と親戚になれればそれでいいのだ。
「それはそうと、アイカル。お前を国外追放することにしたからな」
「はい?」
「ケイハーク様からのご希望もあったのよ。だって、自分の元婚約者がウロウロしていたら不愉快じゃない。そうでしょ?」
私は開いた口が塞がらなかった。
「あぁ、そうそう。お前の次の婚約相手も、決めといたからな」
「いや、何が何だか……」
「王国から出た先の、“辺境の森”に住んでいるゴブリン伯爵だ」
(ゴブリン伯爵……)
どうやら、モンスターも人間と同じように、貴族とか庶民とかに分かれているようだった。
人間と触れ合うこと自体少ないので、よくわからないけど。
しかし伯爵だろうが何だろうが、相手は立派なモンスターだ。
「ちょ、ちょっと待ってください!ゴブリンって、モンスターですよね?私はモンスターと、結婚させられるのですか?」
ゴブリンは、そのひどい見た目で有名だった。
たまに森の中で出会うけど、とにかく醜い。
尖った鼻、ギョロリと大きい目、ガサガサにかぶれた肌。
そして、背丈は人間と同じくらいはある。
それがより、不気味さを増していた。
いくら“忌み子”だからといって、この扱いはあんまりだ。
「だから、お義父様はそうおっしゃっているではないか。お前は本当に耳が悪いな。いや、頭が悪いのか」
「お姉さま、みじめですわよ」
いつの間にか、ケイハーク様がそばに来ていた。
もちろん、クヨジアを添えて。
「ゴブリンって、気持ち悪いことで評判じゃない。むしろ、お姉さまにピッタリな相手なんじゃない?」
「すでに先方は了承しているし、諸々の手続きは済ませておいたからな。馬車も用意してあるから、明日さっさと出て行ってくれ」
「何ですか、アイカル、その顔は。みっともないですよ。口をあんぐりと開けちゃって」
「お姉さま。そんなんじゃ、ゴブリンにも婚約破棄されちゃうわよ」
「さぁ、今すぐ帰ってくれ。早く僕たちの婚約を、皆さんに報告しないといけないからね」
「あっ……が……」
私はもう、何も言えなかった。
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