177、音の消えた日 (お題:沈黙)

 ある日、世界から音がなくなった。

 正確には、自分の頭の中以外から音が消えてしまった。話し声もリンゴを落とした音もバスのクラクションも、何もかも。

 事故が多発するかと思われたが逆に減った。音に頼れないため、みな注意深くなったのだ。

 では、疎通はどうすれば?

 意外に、これも何とかなった。

 相手の身振り、そして口の動きを見ていると、声は聞かずとも言わんとするところが何となく分かった。

 もちろん、本当に相手の意図と合っているかは分からない。が、今のところそれで大きな問題は生じていない。

 もしかすると、声があった時と大して変わらないかも――目を吊り上げ口をぱくぱく動かしている彼女を横目に見ながら、僕はため息をついた。

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