74、矢印 (5/4:みどりの日)

 閑静な住宅街の一画。突き当たったT字路で、一方の道へと矢印が描かれているのが目に留まった。

 形からして道路標示かと思ったが、それにしてはおかしい。白ではなく、それは緑色をしていたのだ。

 誰かのいたずらか? 興味を引かれ、私は矢印へと折れた。

 しばらく進むと、十字路にまた緑の矢印。そして、その先にもまた。

 薄気味悪くなってきた私は、何度目かの矢印で足を止めた。これで最後にしよう――そう決めて、十字路を矢印の方向へと曲がった。

 一面の緑が目に飛び込んできた。路面から塀、電柱、左右の民家に至るまで、すべてが緑色に染まっていた。もしかすると、空気さえも。

 当然、一目散に逃げた。

 以降、緑の矢印に出くわしたことはない。

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