72、絵心 (5/2:コツコツが勝つコツの日)
自筆のカンバスを見つめ、僕はため息をついた。
「どうしたの?」
隣で筆を動かしていたミトさんが尋ねてきた。
「全然うまくならないなあって」
この絵画教室に通って三年。上達の気配は一向にない。
「ミトさんみたいな絵心がほしいですよ」
彼女は笑った。鋭い牙が覗く。吸血鬼なのだ。
「私だって努力したんだから。何事もコツコツ、だよ」
「そうそう」
話を聞きつけて、他の席から何人か吸血鬼がやって来た。この教室では、私のほかに人間は数人しかいない。
「私も思うような絵が描けるようになるまで三百年くらいかかったよ」
「私は六百年」
一同を代表する形で、ミトさんが締めくくった。
「諦めたらそこで試合終了だよ」
次の日、僕は教室をやめた。
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