九 暁
五更西風湊
登楼月色寒
入神東海暁
如玉夜将闌
五更 西風の湊
楼に登りて 月色寒し
神に入る 東海の色
玉の如く 夜将に闌(たけなわ)ならんとす
午前四時。太平洋に面した港には、陸からの西風が吹いている。厚手のコートを着込んで襟を立てていても、吹き付ける風が背中を打ち、体から熱を奪ってゆく。こんな寒さの中に出てくる自分を、酔狂だとも思う。
飽かず眺める海をもっと楽しみたくて、手近にあった脚立に乗る。カメラを構えて海を見れば、背後からの月光が映えて美しい。あくまで白いその光は、照らされるものすべての内実を、寒々とした海面にさらけ出す。
東の空が、少しずつ明るくなってきた。水平線にかかる雲が、日の光に染まってゆく。一幅の絵が、一流の描き手に仕上げられていくようだ。その絵の中に、写真を撮ろうとしている自分が入り込んでいく。
暁光やわが白息の豊かなり
雲の隙間から、光が漏れてきた。にじみ出てくるように、海が明るくなる。そこかしこの隙間から垣間見える陽光は、まるで真珠の輝きに似ている。思わず、繰り返しシャッターを切った。夜は、今まさに明けようとしている。
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