第8話

 ナツメは迷った。黄色いあさりに反対とはいえ工場長には何の非もない。この人はこの人で一生懸命作っていて、試食品を持ってきただけなのだから。ナツメは伏し目がちに、差し出されたカップ麺にゆっくりと手を伸ばす。

 黄色いあさりの中身は塩旨ラーメン。お湯をいれて3分の間、工場長はノートを開きペンを走らせ、部長は背もたれに寄りかかり、外を眺めていた。

 3分が経ち、ナツメは蓋を取りきった。割り箸でかき回すと、あさりが思いの外沢山入っている。

「いただきます」

 モワンとする湯気の中に顔を突っ込み、ズズッと汁を飲む。

「うわ。美味しい! すごく味がいい」

「おぉよかった。気に入ってもらえて」


 これはと確信する一方、ナツメは工場長に胸の内を話した。

「工場長。今まで親しまれてきた二つのメインのカップ麺を終了するのは、何十年と食べ続けた私たち消費者への裏切り行為だと思います」

「裏切り? 何のことです?」

 工場長が問いかける。

「赤いきつねと緑のたぬきの功績を踏台にして、黄色いあさりを全面的に売り出すのは酷だと言っているんです」

 工場長は目をパチクリし「は?」と意味不明な空気を部長に横流しする。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る