第11話
という事で、ユウはマリアの案内で武器庫っぽいシャッターの前まで移動していた。例のごとくシャッターも厳重に封がされており人力ではとても開きそうになかった。そこでユウは、食料庫の扉にそうしたように、妖精達に魔石を渡して開けてもらう事にした。
先程と同じように大きなカーテンがシャッター全体を覆い隠し、その奥で妖精達がジーコロジーコロ作業をしている。
「……あたしは夢を見ているのかな?」
とはマリアの言だ。彼女は目の前の非現実から逃れるように何度も目をこすっている。
「残念だけど現実だ。さっきの食料庫もそうやって妖精に開けてもらった」
「笑うしかないね。ここは異世界だし、そういうものだと受け入れるしかないっぽ。ちなみにカーテンの裏では何をやっているのかなー? ……イタッ!」
裏側を覗こうとカーテンに手をかけたマリアを妖精がぶった。妖精を視認出来ないマリア目線からすると、カーテンに手をかけたと同時に何かに叩かれたという事になるのでさぞ恐怖体験だっただろう。
「なに? なにが起きたの?」
「マリアの手を警官の格好をした妖精が警棒で叩いていたぞ。中を見てはいけないと言ってる」
「信じらんない! ちょっとくらいいいじゃん! イタッ!」
ピピーッと警笛を鳴らしながら近寄っていった警官妖精は再びマリアの手を叩いた。
「その辺にしとけ。鶴の恩返しと似たようなもんだろ」
「なにそれ、覗いたらいなくなっちゃうって言いたいのぉ?」
「そういう事。確実に俺達の役に立ってるんだ、いなくなられたら困る」
「そりゃあ、そうだけどさあ。気にならない?」
「なるよ。なるけど、いなくなるかもしれないという天秤にはかけられない」
5分程度待っていると、カーテンがどこかに消えた。錆びてボロボロになっていたシャッターは新品同然となったが、代わりに今ので魔石を使い切ってしまったようだった。
褒めて褒めてといった様子の妖精の頭を撫でた後、シャッターを開けると、渇望して止まなかった物がそこには山程あった。すなわち、
「戦争でもするつもりだったのかなあ。ちょっと信じられないくらいの武器弾薬だよ」
「植民地を攻め滅ぼせそうだな……。戦車とかヘリがあれば完璧だ」
ユウ達が知る最新装備は流石になかったが、それでも第三次世界大戦の頃に実用的とされた武器弾薬に始まり、大戦時に開発途中だった試作品までも所狭しと並べられていた。
「この分だと、まだ見てないところにハインドくらいはあるんじゃない?」
「ヘリポートがあったからな。確かにあっても不思議じゃない。だがなんにせよだ。武器の補充が出来そうなのはありがたい」
試しに一丁手にとってざっと確認してみる。やはり密閉空間にあったのが功を奏したようで、軽いメンテナンスを施せばすぐにでも使えそうだった。
「好きな銃を一丁確保したらメンテナンスをしよう。背嚢もあるから、それに持てるだけ弾薬を持っていくぞ」
「りょ。って言ってもあたし達は決まってるしょ」
「まあな」
マリアはAA24フルオートショットガン。ユウはM32だ。もっとも、ユウはカスタムをするのでオリジナルMODといった方が正しいかもしれない。
ユウは自分が使用する銃に拘りがあった。グリップの感覚からアクセサリまで拘っている。当然だ。戦場ではこれが唯一頼れる相棒なのだから。
命中精度に定評のあるM32は、そもそもの祖先が狙撃銃だった。そのため、使用する弾丸は7.62mm×51mmという今では存在しないNATO規格である。
マガジン装弾数20発という、小口径が主流となった現在では少ない装弾数だが、それを補って余りあるほどこの銃を相棒として採用する理由があった。
防弾チョッキなどの防弾装備の技術が向上した事によって、小口径の銃弾では一発当たった程度では無力化出来ない状況が多々ある。そうした中、7.62mm×51mm弾はそれらを貫通して尚ダメージを与える事が出来る弾丸だ。
一時キャンプでのケルベロス戦では、そのおかげで無事に生き残る事が出来たといっても過言ではない。それはマリアの使用するAA24にも同じ事が言える。使用する弾薬は12ゲージスラッグ弾だ。あまり対人で使用される類の弾薬ではないが、その分威力は折り紙付きである。
「悪いマリア、そこのレンチ取ってくれ」
「ん、どーぞ」
「ありがとう」
銃本体のメンテナンスを終えたユウは、自分好みのアクセサリーを取り付け始めた。
ピカニティレールの上部にドットサイト、下部にフォアグリップを装着する。それからグリップをいくらか削り、自分の持ちやすいようにする。そうしてようやく、ユウ専用M32MODの出来上がりだ。本当な内装もいじりたかったが、そんな悠長な事をしている時間はない。
背嚢に予備弾薬とバイポット、火力不足を補うための下部ピカニティレールに取り付けるタイプのグレネードガンとその弾薬を入れられるだけ入れる。後は暗視装置なんかも詰め込んだら準備万端である。
「これでよし、と。マリアは終わったか?」
「ん、終わったよぉ。これだけあれば二回くらいは大規模な戦闘に耐えられそうだねぇ」
「そうだな。当面はなんとかなりそうだ。それじゃ相談なんだが、リリウムのいた村が万が一帝国軍に襲われたらどうする?」
「そんなん当然見捨てるに決まってるじゃん。あたし達が助けるメリットなんてないよ」
「まあ、そうなるな。むしろ帝国軍についた方が生き残れる可能性は高い」
「なんでそんな当たり前の事聞いたのぉ?」
「……なんでかな? 一宿一飯の恩義を感じてるのかもしれない。それに、実際に手を下したのは俺達で、あの人達は無実だからな」
他人に優しくされる経験が乏しかったユウは、一宿一飯の恩義を強く感じていた。あの村の暮らしぶりから考えて夕飯を分け与えるというのは、相当身を切っているはずだ。
「そうは言っても他人を助けてるような余裕はないでしょ?」
「わかってるよ。聞いてみただけだ」
「変なの。とりあえず、拠点はここに移すんでしょぉ?」
「そうしようか。とりあえず使える施設を増やすためにも周辺の魔物を狩って魔石を集めよう。流石に武器庫の硬い床では寝たくない」
「てことはぁ、密林方面に入るって事ぉ?」
「そうなるな。ついでにフレッドも捜索しよう。生きてるなら銃の音で気付いてくれるかも」
「えー。せっかく二人きりを楽しめると思ってたのにぃ」
「まあそう言うなよ」
文句たらたらのマリアをなんとか説き伏せて二人は先程の丸木舟で魔物ひしめく密林側へ移動すると、そこで狩れるだけ魔物を狩った。そうして集めた魔石を使用し、水上拠点の機能を解放していく腹積もりだった。
何体目かの魔物を倒して魔石を剥いでいると、木々の奥からこちらに接近してくる存在があった。
油断なく銃を構えて対象が視認出来る距離まで近づいて来るのを待っていると、現れたくたびれた顔をしたフレッドだった。
「フレッド!」
「よお、お二人さん……やっぱ生きてやがったな」
「ちくしょー、やっぱ生きてやがったかぁ。せっかくユウと二人きりだったのにぃ」
次いで、マリアはボソッと「このままMIAになってればよかったのに」と言った。MIAとは作戦行動中行方不明という意味だ。つまり、このまま帰ってこなければよかったのにと言っているのである。
「ふざけんな! 半死半生で生きて帰った人間になんつー言い草だ! こっちは死にそうになりながらもなんとか逃げ回ってたんだぞ!」
「俺達も似たようなもんだったよ。クソトカゲに追われて崖から紐なしバンジーさ。マリアなんて一回死んだところを俺が蘇生させたんだよ」
「マジかよ。そのまま死んどきゃいいものを」
「あんだとぉ? お前こそふざけんな! あたしが今ここで殺してやろうかぁ!」
マリアはそう言うとフレッドにショットガンを突きつけた。だが、しっかりとセーフティーロックがかかっている上、トリガーから指を外しているので本気でない事はすぐわかる。
「うるせークソ女! やれるもんならやってみやがれ!」
マリアとフレッドが罵り合う姿を見てユウは自然と笑いがこみ上げてきた。死にそうな目に遭っても、生きていればこうして罵り合う事が出来るのだ。
「……なんで笑ってるのさ」
「そーだぞ。ショットガン突きつけられてんだから笑ってる場合じゃないぞ」
「いやなに、三人だけだけど、フェンリルが帰ってきたなって思ってさ」
そう言うと、フレッドは鼻の頭を人差し指で触りながらこう言った。
「へっ、そういう事かよ。俺達があの程度でくたばる訳ねえだろうが」
「業腹だけどフレッドに同意。あたし達はどんな戦場でも生きて帰ってきたんだから」
「そうだな。俺達は、今までもこれからも、生き残る。生きてさえいれば、こうして笑い合えるんだから」
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