第29話

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王様とスタッフ一行は南米と中米をみて廻り、ガテマラコーヒー園の別宅にやってきた。

[さあて、ここでゆっくりするか。子供は遊びに行っていいぞ。]昴[ビルマちゃんのところに行ってきます。]チヨは”キッ”っとした顔をしたが、すぐに引っ込めた。


三匹の犬もガード犬がたくさんいるので遊びまくっている。志野[ここに来ると落ち着きます。とても周囲の雰囲気も良くなってきました。][そうだな。ゆっくりできてとてもいい。]


昴はビルマ3兄弟と楽しく遊んでいる。チヨも一緒にいるが少し離れて寂しくしている。兆助はビルマのそばにいるのだが、ガードドッグの友達がたくさんいるので遊びながら昴に目をやっている。[ビルマちゃん武道を始めて面白い。][そうね。7歳だからまじめにやらないといけないのだけど面白いわよ。同じ学年の男子にも負けないわ。]


[強い娘はいいな~。]チヨがそれを聞いていて”カチン”と来たようだ。[女には女の生き方があるの、腕力が強いだけじゃダメなのよ。][あれ~、聞いていたの~。]


ゴン太にユリそれに長助までが雰囲気を察して割り込んできた。昴[みんなジュースを飲もう。お菓子もあるよ。]一同[わ~い、行こう行こう。]

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[サスケにすずさん、江戸八に行くぞ。][御馳走様です。すぐに行きます。][わても行きますよ。]タエ[王様、いらっしゃいませ。]一同[いらっしゃいませ。]


[タエちゃんは何ができるのかな。][私はぶり大根だけで他のメンバーはおしんこだけです。][はっはっはっ。それではぶり大根とおしんこを全員にあとは適当に持ってきてください。お酒は木樽と桶マスでお願いしますね。][はい。かしこまりました。]


[やっぱり木樽入り酒と桶マスはいいな。]すず[何か味が違うようですよ。美味過ぎます。]サスケ[ほんとにまったくこっちのほうがいいです。桶マスは何とも言えませんねいい出来です。][おまけの景品ではもったいないな。ぶり大根は味が染みていておいしいよ。][はい。ありがとうございます。]

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ブータンでは隣家の家族といつものようにバーベキューが始まっている。本日の肉は王宮にストックしてあった猪と鹿である。

[この酒は今までのと違うぞ、芋に麦が混じっているな。][はい。その通りでこの2種類の酒は私の友人で南インド境の町サムドゥプジョンカという町で、私と同じように代々酒を造っていて2種類の芋に麦を麹にして造っているんでさあ、旦那さんどうですか。]


[これもいけるよ。あなたと同じくらいのものだ。同じ値段で買ってもいいぞ。][はい。ありがとうございます。この奴も頑固で品質をちゃんと守りますんで、心配ないと思います。製法の工程は私と同じですがここは海抜が1,100mで向こうは200mなので生育している植物が違います。


向こうは向こうの昔からのやり方です。芋は赤と白がありまして白は少しあっさり目で、赤はコクが濃い目です。売れ行きはやや赤の方がありますがたいして変わりません。]


[わかった担当者を行かせるようにするよ。これも品質を落とさなければみんな買うぞ。][それは喜ぶと思います。これだけやっていれば生活ができますんで。]

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次の日、桶マスを作っているところに昴とチヨを伴った。[元気そうだな。][あ、旦那さんいらっしゃいませ。どうぞおかけになってください。][おかげさんで週200個の注文を納めて、これだけで何とか生活ができます。今までの仕事の分も入れますと、全く生活の心配がなくなりました。]


[それは良かったな。大将の腕を見込ん今度も特別な注文をするんだけども、このようなものだ。]と言って自分で作った益子琳派の抹茶茶碗と写真集を出した。[これを木桶でできるかな。この底の部分が難しいと思うが。]


じ~っと2・3分見ていたが、[確かに並みの腕では無理ですけれど私にはできます。底の出っ張りも水を入れるわけでないので、多少の隙間も可能なはずでホゾを組み込めば何ともありません。ほぼ丸くに出っ張りはできますよ。それから私の家は親父も桶屋で私が小学校高学年で一通りの技術を習得してしまいまして。それで小学校を卒業をすると彫刻の修行に出されました。

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他の勉強もして来いということです。そこで6年そして大工修行で6年の12年を他で学びました。ですからこのお椀の周囲に動物や草木の彫刻もできますし、ホゾを組み込むのも何ともありません。それとここにも塗りの漆職人がいますが、できることなら自然の木肌のままの方が面白いですよ。]


[それでは持参した抹茶茶碗と写真集を参考にして彫刻と出っ張りを入れて、大将の感性で好きなように2個作ってくれるかな。1個5,000円×2個=10,000円でいいかな。][こりゃあどうも、一生懸命に作りますが、明後日までに仕上げます。金はその時で結構です。]


[ではよろしくお願いしますよ。][承知しました。]チヨ[いいのができそうですね。自信のある表情をしていました。]昴[ボクもそのように思います。おじさんの目が生き々していました。]兆助もワンワンワン。と鳴いている。

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全く違う木の種類で2椀が出来上がった。1椀目は緻密な木目で高山に生息しているものと思われる動物が彫られているが、巧みに木目を活かせて洒落っ気があるし見ていて飽きないものになっている。2椀目は初めから薄い墨色になっていて木目は多少だが見える。ここに草木が鋭い感じで彫られている。どちらも秀逸である。


高台はホゾで細かく丁寧に埋め込まれていて、少し叩いてもビクともしない。[これはいいものだな。あと10個を同じように作ってくれるかな。お金はここに全部を払っておくが、6万円で頼む。2週間でやっておいてくれるかな。]


[これはどうも喜んでやっておきます。]チエ[これはいいものです。良い買い物になりました。]昴[ボクは直感で高いものになると思います。][そうだけど売るかどうかはまだわからんし、お茶会用だけというのもある。遠州さんと良く打ち合わせをしてからだな。でもチヨちゃんの言うとおりこれはいいものだよ。]ワンワンワン。

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サスケ[へぇ~、これはたまげました。150万円でもいけますよ。]すず[それでも安いくらいです。作者はアルチャナル太郎とでも言っておきましょうか。この木肌は使い込むほど趣のあるように変化していくと思いますよ。


萩の七変化のように。][そうなんだよな。木の種類を吟味してお茶碗の用途をちゃんと理解しているようだ。これは案外と思っている以上かもしれんぞ。]


子供たちは隣家の3人とともにセミを獲りに行った。ここら辺のセミは大きくて非常に鳴き声がうるさい。昴はまだ小さいのでなかなか獲れない。チヨ[昴ちゃんまたおしっこをかけられちゃったわね。私が獲ってあげるわ。]チヨも同じようにしょんべんをかけられている。昴[来年はちゃんと獲れるようになろうね。]ワンワンワン。







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