#52 ヒメカの勝負時



 部屋に入ると、森山くんはコタツに入って寝転がって、スマホでゲームをしていた。



『お帰りなさい。 体温まりましたか?』


「うん、ありがとうね」


 そう受け答えしながら、脱いだ下着とかをバッグにしまったり、スカートをクローゼットに掛けさせて貰う。



 森山くんがゲームを中断してスマホをコタツのテーブルに置いて座り直したので、黙って森山くんの右側真横にくっ付く様に入る。


『もう今日は勉強しないのに、また一緒の所に?』


「うん、もうコレが定位置みたいなものですよね? 嫌ですか?」


『いえ、嫌とかじゃないです。 ただ、寝る前に女性とこうしてくっ付いてるのは、どうにも落ち着かないと言いますか』


「うふふ、森山くんも私のことを女性として意識してくれてるのかな?」


『何言ってるんですか? 当たり前じゃないですか。 現世の聖女様である漆原さんを女性と意識しない男性なんてこの世に存在しませんよ?』


「森山くんにそう言われると、ちょっと嬉しいです。 ありがとうね」


 そう言って、もたれ掛かるように森山くんの肩に頭をコテンと乗せると同時に、左手を森山くんの右手と繋ぐ。



 私は普段絶対に出さない様な甘い声で、お願いごとを口にした。


「森山くん、今日一緒のお布団で寝ても良い?」


 今夜は表向きはハルコちゃんのお部屋で寝ることになっていた。

 だけど、ハルコちゃんとは前もって相談済で、森山くんの部屋で一緒に寝るのが、今夜の私の作戦だった。



『は? いま聞き間違いで無ければ、一緒の布団で寝たいと言いました?』


「うん。 折角のお泊りだから一緒のお布団で抱き合って寝たいなって思って」


『本気で言ってます!? こんなに冴えない日陰ぼっちの僕だって男ですよ? 女性と一晩一緒のお布団だなんて、理性が保てません』 


「うん。 私はそういう覚悟も含めて一緒のお布団で寝たいの」


『・・・・って、ダメでしょ! 隣にはハルコ居るし、下の階にだって父も母も居るんですから!』


「ハルコちゃんは当然知ってるよ? ご両親には騙してるみたいで後ろめたいけど」


『ぐぬぬぬ、既にハルコには手を回しているのですか・・・』


「ダメですか・・・?」


 少し悲しそうな表情で訴えるように森山くんの目を見つめる。


 あざといと言われようと、腹黒いと言われようとも、ココが勝負時。



「最近、学校に居る間、ずっと気持ちが沈んだり焦燥感に苦しんだりしてたんです。 森山くんが少しづつ変わろうとしてて、それで周りから受け入れられるようになって行って。 そんな姿を見てひとりで嫉妬したり焦ったりしてたんです。 でも今日はこうして二人っきりで過ごせているから、そういう嫌な気持ちを全部忘れられて、凄く幸せ感じてるんです」


『それは・・・僕は嫉妬して貰えるような大した人間じゃないです。 中学のころからずっと日陰ぼっちだった僕が、漆原さんが仲良くしてくれるようになってから、一人じゃなくなって、今じゃ生徒会の一員です。 僕が変われたとしたら全部漆原さんのお陰なんです』


「だったら・・・その私からのお願いです。 今夜は一緒のお布団で寝て欲しいです」


『はい・・・分かりました』


「ありがとうございます・・・」


『いえ・・・』


「・・・・」


 うう、説得出来たのはいいけど、いざとなると恥ずかしい

 言葉が上手く出てこなくなってきた



『とりあえず、お布団に入りましょうか。 朝早かったし、このままコタツで寝ちゃったら風邪引いてしまうかもしれませんので』


「はい・・・」




 森山くんのベッドに先に入らせて貰い布団に潜る。


 布団から目から上だけ出して、森山くんが来るのを待つ。



 森山くんは、コタツを切ったりスマホを充電器に繋げたりして、時間はまだ22時前だったけど、部屋の照明を小さいオレンジの灯りに切り替えた。



『僕も入りますね』


「はい」



 森山くんがお布団に入ってくると、待ちきれなかった私は森山くんに抱き着く。


『そ、そそそそんなに強く抱き着かれたら、寝れませぬぞ』


「あ、ごめんなさい・・・」しょんぼり


『あの・・・漆原さんが嫌じゃなければですが・・・・腕枕しますが』


 腕枕!


「はい!」


 もぞもぞとお互い体勢をずらして、森山くんの左腕に頭を乗せてスッポリと収まる。


 凄い!凄い!凄い!!!


 私の人生でもっとも森山くんとの距離が近くなってる!


『寝辛くないですか?』


「ひゃい! も、森山くんも腕辛くないですか!?」


『腕は大丈夫です。 漆原さんの頭重くないですし。 ただ・・・ドキドキします』



 森山くんのテレた顔が超至近距離

 少し顔を前に出せば、キス出来ちゃう


 ムフームフー


 ああ、興奮して中毒症状が出て来た

 森山くん中毒、これ以上押さえられない


 森山くんにも私の鼻息が荒いのが聞こえちゃう


『だ、大丈夫ですか!? 苦しそうですよ!?』


 もうダメ、限界

 これ以上顔を見つめられたら鼻血出ちゃいそう


 危険と判断して、とっさに森山くんの胸に顔を埋める


「少しだけ、このままで・・・」


『わかりました』



 森山くんの胸に顔を埋めながら、息を整えるように呼吸を繰り返す。


 五分程して落ち着いて来たので、再び頭の位置を森山くんの左腕に戻す。


「すみません。落ち着きまし・・・あれ?」


 スースー


 森山くん、寝ちゃってる?



 試しに森山くんの鼻の頭をツンと触ってみる。


 反応なし。




 あ、そうか


 今朝早かったから、眠たかったんだ




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