#27 策士ハルコ、一計を案ずる
ヒメカさんがウチに来て以来、頻繁にチャットアプリで連絡を取り合っている。
連絡先を交換して最初一日二日は、お兄ちゃんのことで今後心を開いて貰うにはどうすれば?とかの相談だったけど、三日目以降は順調の様でヒメカさんからの惚気を聞くばかりになっている、気がする。
「ハルコちゃん!聞いてよ! 森山くんチョコレートケーキが好きなんだって!」
うん、知ってます。 兄妹ですからね。
「ハルコちゃん!聞いてよ! 森山くんが私のお弁当食べて、すっごいホメてくれたんだよ! 食べてる時の森山くん、素敵だったなぁ」
ほう、お兄ちゃんが女の子の手作り弁当を。珍しいですね。
「ハルコちゃん!聞いてよ! 今日ドズルくんと散歩の帰り道にね、森山くんと手を繋いで歩いちゃった。すっごく恥ずかしかったけど、調子にのって最後ハグもしちゃったんだよ!森山くんの匂い、いっぱい嗅いじゃった」
え!?お兄ちゃんがヒメカさんとハグ???
妹の私でもそんな記憶、小学生低学年のころだし、ヒメカさんどんな裏技使ってるの???
空手の達人、恐るべしってところですね。
「森山くんと一緒にお料理、なう」
画像ファイルが添付されていたので開いて見ると・・・
お兄ちゃんが口開けて間抜けな顔して、ヒメカさんがそれ見て楽しそうな顔した二人の写真。
え? お料理してなくない?
ヒメカさんは口に出して言わないけど、ヒメカさんがお兄ちゃんを好きなのはバレバレで、そういう意味でも私は二人を応援している。
それにヒメカさんと友達になって、たった1~2週間でお兄ちゃんが凄い変化。
私がどれだけ説得しようとも頑なに独りぼっちを突き進もうとしたお兄ちゃんなのに、流石ヒメカさんだ。
超美少女でスタイルも良くて、正義感強くて性格は優しいし、学校とかでも相当モテるんだろう。
お兄ちゃんくらいの男性なら、ヒメカさんにかかればイチコロなのかもしれない。
そんな微笑ましくも驚いたりのヒメカさんとのやり取りを続ける日々だったけど、先ほど学校帰りにヒメカさんから敵認定されているカスミちゃんと自宅前で遭遇。
カスミちゃんも丁度学校から帰ってきたところらしい。
私立高校の制服姿だった。
不自然に無視して変に絡まれるのも嫌なので、ご近所スマイルで挨拶。
「こんばんは」
「あ、ハルコちゃん久しぶり」
「お久しぶりです、カスミ先輩」
「先輩って・・・」
「私、用事あるので失礼します」
「ちょ、ちょっと待って!」
「すみません。本当に急いでいますので」
そう断り、背中を向けてさっさと自宅の門の中に入る。
玄関に入る前にドズルの唸り声が聞こえるので庭を見ると、ドズルはカスミちゃんに向かって威嚇しているようだった。
ガルルル(大丈夫案ずるな。ミネバを頼む)
カスミちゃん、ドズルにも敵認定されてるようですね。
私はドズルに「後でおやつのジャーキー持ってくるね」と伝え、この場をドズルに任せて玄関へ入る。
お兄ちゃんは既に帰って来ていて、庭のドズルの様子が気になるようだった。
「ただいま、お兄ちゃん」
『あぁ、お帰り。 ドズルが落ち着かないみたいだけど、何かいたの?』
「野良猫が居たからそれじゃないかな? お行儀の悪そうな猫だったし」
『ふ~ん、なら平気か』
「うん、大丈夫大丈夫、ドズルと私とヒメカさんが居ますからね」
『え?なんで漆原さん???』
「いいからいいから」
ドズルがウチにやって来たのは3年程前。
周りと距離を置き始めて一人で居る様になったお兄ちゃんのことを心配したパパが「友達の代わりに」と、ある日突然家に連れてきた。 仕事帰りにペットショップで買って来たそうだ。
ビーグル犬は寂しがり屋で甘えん坊だそうで、独りぼっちのお兄ちゃんには持ってこいとパパは考えて買って来たらしい。
以前カスミちゃんにべったりだったお兄ちゃんに、ドズルはべったりと甘え、お兄ちゃんもドズルと本当の友達のように毎日散歩に出かけるようになった。
ドズルは3年経って大きくなった今でもお兄ちゃんに甘え、そしてお兄ちゃんに何かあると真っ先にお兄ちゃんを守ろうとする。
ヒメカさんの話では、あの事件の時も、ドズルはヒメカさんをお兄ちゃんに近づけないように物凄い剣幕でお兄ちゃんを守ったそうだ。
まぁ、そのせいでヒメカさんも未だにドズルに敵と思われてるらしいですが。
つまり、今のお兄ちゃんにはカスミちゃんがつけ入る隙は無い。
ドズルと私とヒメカさんでガッチリとガードを固め、これ以上お兄ちゃんを傷つける様なことは絶対にさせない。
そんな事を考えていると、スマホにヒメカさんからメッセージが
「週末も森山くんに会いたいのに、会う理由が作れないよ~、ハルコちゃん、何か良いアイデア無いかな?」
ヒメカさんほどの美少女でも、恋する乙女の様な悩み事があるんですね。
「映画見に行こう」でも、「買い物に付き合って」でも、ヒメカさんほどの女性からのお誘いなら誰も断りはしないだろうに。
あ、でもお兄ちゃんにはそういうの通じないか。
そこで私は1計を案じた。
「明日、ウチで勉強会しましょう。 ヒメカさんのテスト勉強と私の受験勉強を。 兄の方は私が何とかしますので」
「本当に!? またお家にお邪魔してもいいの!!??」
「もちろんです。 兄は休日はドズルの散歩以外には滅多に出かけませんし、ヒメカさん来てくれたら母も喜びます」
「勉強の用意もって行くね! 午前中からでもいいの?」
「はい、午前中でOKです。10時頃にしましょうか」
「了解です! 明日10時に伺うね。 ハルコちゃん、ありがとう!」
そして、リビングのテレビでクローズアップ現代に夢中になっているお兄ちゃんに
「明日、用事とかある?」
「特に用事は無いけど・・・ 明日はテスト勉強したいから、お買い物とかのお供なら他を当たって下さい」
「あ、買い物とかじゃないから大丈夫だよ。 明日は家にいて下さいね」
これで明日は大丈夫でしょう。
お兄ちゃんにはヒメカさんが来ることは、まだ内緒。
サプライズを演出して、お兄ちゃんをビックリさせて、二人の恋を後押しします。
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