#12 ポンコツヒメカ




 公園で精神統一を続けていると、次第に顔の熱が引いて、心が落ち着いて来るのが分かる。

 もう大丈夫かな?と試しに再び森山くんの昨日の姿を思い浮かべてみる。


 また顔が熱くなってきた。


 ダメじゃない!

 まだ精神統一が足りないわ!


 再び目を閉じて精神統一に入る。


 気が付けば30分以上も経っていた。


 またやってしまった!

 今日はお家で森山くんからの連絡を待つって決めてたのに!


 急いで靴下とローファーを履いて、お家まで走って帰る。




 お家に入ると着替えもせずにキッチンへ駆け込み、ママに今日のことを報告する。


「ゼェハァゼェハァ、森山くんの、連絡先、聞けなかった、ゼェハァゼェハァ」


「えー!もうなにやってるのよ!」


「でも、ハァハァ、お手紙、書いて、ハァハァ、渡した、ハァハァ、そこに、私のスマホの、連絡先、書いた、ハァハァ」


「あら、なら連絡を待つしかないわね。それよりも、早く着替えてらっしゃい。 スカートがドロだらけよ?」


「う、うん。 帰りの途中、公園で精神統一してたから」


「もう、何やってるのよアナタは。ほら、早くシャワー浴びてらっしゃい。 スマホはママが見ていてあげるからね」


「うん、わかった」




 この時、ヒメカの母親は思った。


(この子、普段は凄くしっかりしてるのに、昨日から森山くんのことになると途端にポンコツになるわね。大丈夫かしら)







 ◇◆◇






 シャワーを浴びて、夕食を食べてる間も森山くんからの連絡は来なかった。

 段々と不安になってきたので、キッチンでお茶をしながらママと一緒に連絡を待つことにした。


「やっぱり森山くんに嫌われちゃってるのかな・・・暴力女なんて嫌われるよね・・・」


「大丈夫よ、ヒメカちゃんはネガティブすぎるわね」


「ママが楽観的すぎるの!」


「でも森山くん、昨日は凄く優しくて、ヒメカちゃんのこと気遣ってくれてたんでしょ?」


「うん・・・凄く優しくて恰好良かった」


「あらら、恰好良かったとまでは聞いてないんだけどな。でも、そんな男の子なら、女の子からの手紙を無碍にしないと思うよ?」


「そ、そうかな?そうだよね? 連絡くれるよね?」



 その時、スマホから映画「燃えよドラゴン」のテーマソングが流れた。

 通話着信のメロディーだ!


 慌ててスマホを掴む


「番号しか表示されないから、森山くんか分かんないよぉ~」


「落ち着いてヒメカちゃん! 早く出ないよ切れちゃうわよ?」


「う、うん。出る」



 通話アイコンをスライドして耳に当てる。


「は、はい!う、う、うるるしばりゃでしゅ!」


 かんじゃった!


『あ、あの、森山と申します。 漆原さんの電話番号であってますでしょうか?』


「ひゃい!うるしゅばらであってましゅ!」


『あの・・・調子悪そうですが、大丈夫ですか? また掛けなおしましょうか?』


「だ、だだだだいじょーぶです!」


 もうテンパり過ぎて、自分でも何話してるのか分からない。


 落ち着け

 落ち着くのよ、ヒメカ


 話すことは決まっているのだから


 スマホを耳に当てたまま、目を閉じて精神統一・・・


 よし!もう大丈夫!


 そこから一気に話した。

 最後勢い余って「凄く恰好良かった」とか言っちゃったけど、概ね言いたかったことは伝えられた。



「ヒメカちゃん、大事なことが抜けてるわよ。ちょっとスマホ貸しなさい。ママが代わるから」


 そう言ってママに強引にスマホを取られて、ママが森山くんと会話を始めた。


 そうだった。

 森山くんのお家にお詫びに伺う話を忘れてた。




 でも、ママが強引にその話もまとめてくれて、再び私に代わる。



「あ、あの・・・ママが無理言ってごめんなさい・・・」


『いえ・・・お母さんが言ってることは、尤もなことなので』


「そ、それで・・・あの・・・手紙に書いてたことなんですが・・・えっと、その・・・」


『あーその、お友達にっていう話でしょうか?』


「ひゃい!」



 ある意味もっとも重要な要件

「お友達から」という恋愛的な告白と勘違いされずに、ちゃんと友達になれるかどうか


 私は色目を使うようなはしたない女じゃないのよ!

 純粋に森山くんとお友達になりたいだけなんだからね!


 そんな願いを込めて、森山くんの返事を待つ。



『えーっと・・・僕なんかで良ければ・・・お願いします』


「え!?ホントに!?ホントに友達になってくれるんですか???」


『あ、いえ、その・・・・ハイ』


「ありがとうございます!!!」



 よかったぁ~・・・

 告白と勘違いされていないみたいでホッとした。



『で、でも1つお願いが。 僕は学校では目立ちたく無いので、学校以外でのお友達ということで』


「そ、それはつまり・・・?」


『今朝みたいに教室で話しかけられたりすると、みんなから注目されて、凄く怖いんです』


「そ、そうだったんですね・・・だからいつも一人で・・・」


『はい。情けないんですが、どうしても周りの視線が怖くて』



 そういうことだったんだ。

 森山くんにも色々事情があるのは当たり前だよね。


 言われるまで、そのことに気づけなかった。



「じゃあ今朝の私も森山くんにまた迷惑かけてたんですね・・・ごめんなさい」


『はい・・・』



 しかしココで私は閃いた。


「あ!でも、学校以外なら良いんですよね?」


『ええ、まぁそうですね』


「なら今度ウチに遊びに来ませんか? ご迷惑お掛けしたお詫びもしたいし!」


『えええ!?漆原さんのお家ですか!? それはちょっと・・・』


「ダメでしょうか・・・」


『わ、わかりました・・・お邪魔させて頂きます』


「ホントに!? 約束ですよ!!!」


『はい・・・』



 なんだか大会で優勝した時よりも嬉しい!

 森山くんと仲良くなれるチャンスが出来た!


 そこからは少し雑談をして無事に通話が終わった。


 通話を終えて、スマホを両手で抱きしめながら、大きくため息を吐くと、ママがニヤニヤしながら


「森山くん、とても真面目で優しそうな好青年ね。 きっと実際にあったら素敵な男の子なんだろうね」


「そ、そうだよ!森山くん、私の渾身のキック受けても立ち上がるくらい強くて恰好良いんだから!」


「それにしてもヒメカちゃん、森山くんのこととなると凄いポンコツになるわね。 森山くんをお家に招待しちゃって大丈夫なの?」


「もう!そんなこと言わないでよ!」



 ママに言われなくても、気づいてるよ。

 精神統一しても、森山くんのこと考えただけで気持ちがぐらぐらになるくらいなんだから。

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