#11 ぼっちには電話1本が大仕事




 手紙に書かれている番号をタップしていく。


 スマホを耳に当てると呼び出し音が聞こえる。


 心臓がバクバクしてきた。



 ヒーヒーフ~

 ヒーヒーフ~


 緊張を抑えようと呼吸を整える。

 ラマーズ法は出産時の呼吸法だが、緊張を抑えるのにも有効だ(自論)




「は、はい!う、う、うるるしばりゃでしゅ!」


 んん? これ漆原さんであってるよね?


『あ、あの、森山と申します。 漆原さんの電話番号であってますでしょうか?』


「ひゃい!うるしゅばらであってましゅ!」


『あの・・・調子悪そうですが、大丈夫ですか? また掛けなおしましょうか?』


 理由は分からないけど、漆原さんはかなり動揺しているようだ。

 それが分かると、僕の方は逆に落ち着いてきた。


「だ、だだだだいじょーぶです!」


『そうですか。 夜分にすみません。それで、手紙を頂いた件で電話したんですが』


「はい!昨日は本当にすみませんでした! 本当に森山くんをキックするつもりじゃなくて、痴漢を撃退するつもりで! それなのに私を助けようとしてくれた森山くんを蹴ってしまって怪我もしてるはずなのに、家まで送ってもらって手当もしないでそのままに帰してしまって、色々とごめんなさい! それと助けてくれようとしてありがとうございました! あ、あと!昨日の森山くん、凄く恰好よかったです! あ、ちょっとママ、まだ話の途中、あぁ!」


 漆原さん、今度は早口過ぎて、聞き取れないよ


「もしもし?森山くんですか? ヒメカの母です。 ヒメカ、今緊張しすぎてまともじゃないから、私の方からお話しますね」


『え!?漆原さんのお母さん???』


「ええ。 昨日はヒメカが迷惑かけてしまって本当にごめんなさい。 それでね、一度森山くんのご両親にきちんとお詫びしに伺いたいと思うのだけど、連絡先とかご住所が分からなくてね、教えて頂けないかと思うのだけど、どうかしら?」



 なんてこった!

 漆原さんのお母さんまで登場してしまったぞ!

 こうなると、見せかけだけの友人関係では済まなくなって、あとで逃げる作戦も出来なくなるではないか!!!


 落ち着け

 落ち着くんだ

 冷静に対応して、家に謝罪にくる必要はないと、断ろう



『あの。そこまでして頂かなくても大丈夫です。 両親には昨日の事は報告していませんし、オオゴトにするべきでは無いかと思いますので、お気持ちだけで十分です』


「でも、そんな訳にはいかないですよ。 森山くん、本当は怪我してるんでしょ? ヒメカはこれでも空手の有段者です。そのヒメカのキックをまともに受けて、怪我してないなんて考えられないですよ?」


『た、確かに昨日の夜は痛みが酷かったですが、今はもう収まって平気ですから』


「あのね森山くん、森山くんにとっては大したことではないかもしれないけど、ご両親にとっては大事お子さんが怪我させられたなんてオオゴトなんです。 私だって娘が他人を怪我させてしまっては親としての責任を全うしなくてはいけないの」


『はぁ・・・』


 なんかお説教が始まっちゃった・・・


「だから、勝手を言ってるのは重々分かってます。けど一度謝罪に伺わせて下さい」


『わかりました・・・』


 住所と家の電話番号を口頭で伝える。

「明日にでも」と言われたけど、流石に親に説明する時間が欲しかったので、日程の都合はこちらから連絡することで納得してもらう。



「それじゃあヒメカと代わりますね」




「あ、あの・・・ママが無理言ってごめんなさい・・・」


『いえ・・・お母さんが言ってることは、尤もなことなので』


「そ、それで・・・あの・・・手紙に書いてたことなんですが・・・えっと、その・・・」


『あーその、お友達にっていう話でしょうか?』


「ひゃい!」



 漆原さんのお母さんが登場してしまい、家まで謝罪に来るとなっては、もう逃げられない。 こうなったら作戦は中止して正直に僕のことを話して、学校では目立つことを止めてもらうようにしよう。



『えーっと・・・僕なんかで良ければ・・・お願いします』


「え!?ホントに!?ホントに友達になってくれるんですか???」


『あ、いえ、その・・・・ハイ』


「ありがとうございます!!!」


『で、でも1つお願いが。 僕は学校では目立ちたく無いので、学校以外でのお友達ということで』


「そ、それはつまり・・・?」


『今朝みたいに教室で話しかけられたりすると、みんなから注目されて、凄く怖いんです』


「そ、そうだったんですね・・・だからいつも一人で・・・」


『はい。情けないんですが、どうしても周りの視線が怖くて』


「じゃあ今朝の私も森山くんにまた迷惑かけてたんですね・・・ごめんなさい」


『はい・・・』


 うう

 空気が重くなってしまった


「あ!でも、学校以外なら良いんですよね?」


『ええ、まぁそうですね』


「なら今度ウチに遊びに来ませんか? ご迷惑お掛けしたお詫びもしたいし!」


『えええ!?漆原さんのお家ですか!? それはちょっと・・・』


「ダメでしょうか・・・」


 ううう

 今朝見た漆原さんの泣きそうな悲しそうな表情が思い浮かぶ


『わ、わかりました・・・お邪魔させて頂きます』


「ホントに!? 約束ですよ!!!」


『はい・・・』



 もうこれで要件は全部すんだのかな?

 でも通話を打ち切るタイミングが分からない


「それでね、森山くんは、好きな食べ物とかありますか?」


『え?好きな食べ物ですか? そんなの知ってどうするんです?』


「その、今度お家にご招待した時にね、食事でもてなしたいなって思って」


『そんな気を遣わなくても大丈夫ですよ』


「そうですか・・・」


 また元気が無くなってるし・・・はぁ

『好きな食べ物は、厚切りベーコンとソフト麺です』


「厚切りベーコンとソフト麺ですね!分かりました!ありがとうございます!」


『いえ、お礼を言われるようなことじゃ』


「あ、もうこんな時間! 今日は電話くれてありがとうございました! これからもよろしくお願いします!おやすみなさい!」


『こちらこそ。おやすみなさい』



 ようやく通話が終了した。


 兎に角無茶苦茶疲れた。


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