第8話 瘴気の少女 1


 クルスタ王国から北東部。ファズム公国を目指して進む私たちは、アーカラという街へとやってきていた。

 アーカラはまだクルスタ王国の領土である場所だが、ライランや王都スタークと比べるとかなり高所で寒い地域となる。それ故に人の出入りはあまり激しくなく、少々閉鎖的な街であった。


「だーかーらー!いったい何が何だっていうのよ!」


 アマヒルダが犬のようにぎゃんぎゃんと叫ぶ。

 そんな閉鎖的な街だからなのか、私たちはなぜかその街に着くや否や警備兵に拘束されていた。


「君たちが報告書にある指名手配犯に酷似しているんでねえ」


 妙にねちっこい喋り方をするその警部兵が、アマヒルダの抗議に反論をした。というか、先程からそれしか言っていない。

 もちろん私たちは指名手配されるような悪事は働いていない───どころか冒険者として人助けをしているほどなのだが、この警備兵の人柄なのかそういうマニュアルなのか、私たちの話はほとんど聞き入れていない様子だった。


「……もう!何の容疑なのか聞いても答えないし、なんなのよアイツ!」


 まさに憤慨といった感じで私に愚痴を叫ぶアマヒルダ。その気持ちはわからないでもないが、もう少し落ち着いてほしいところだ。その粗暴な行動から、更に私たちが怪しいという印象をつけてしまうかもしれないのだから。

 と、私がそんなことを考えていると、この簡易的な牢屋のような場所にもう一人の男がやってきた。


「おー、兵長、来るの遅いですよお」

「すまねえすまねえ。色々話が立て込んでてな。んで、そっちのやつらが……」

「はいぃ。例の事件の犯人かとお」

「……例の事件?」


 アマヒルダがそう聞き返すと、警備兵長が黙ってじろりとこちらを見た。


「……ここ最近、街の周辺地で謎の少女に襲われたという報告が多発していてな」


 少女に襲われる。街の外でということはおそらく襲われているのは冒険者であり、普通に考えたらそんな少女などありえない。考えられるとしたら、少女の見た目をした何かだ。例えば、アマヒルダのように幼く見えるが実は大人だとか。


「ふーん。まあ、そういうことならたしかにメリアがいるから仕方ないわね」


 ……いや、私は生まれつき身体が弱いから少し貧相に見えるだけだが。


「ふむ……その前にテニー。お前はこいつらを外で捕らえたのか?」

「いえぇ。街に入る手続きをしに来てたところを捕らえましたあ」


 ビシッと敬礼ポーズをとりながら報告するテニーと呼ばれた警備兵。警備兵長はそんなテニーを無視して没収されていた私たちの荷物を少しばかり漁ると、力強く握った拳をテニーの脳天に振り下ろした。


「馬鹿野郎!襲撃犯が堂々と街に入ろうとするわけないだろうが!」

「す……すんません!」

「もういい!お前は門番に戻れ!」

「はいぃ!」


 尻に火でも着いたかのようにドタドタと部屋を出ていくテニー。警備兵長はそれを見届けると、私たちの方に向き直った。


「申し訳ない、こちらの監督不届きだ」


 警備兵長はそう言って頭を下げると、すぐさま私たちを牢屋の中から解放した。

 そんな警備兵長に対してブツブツと文句を垂れながら牢屋を出ていくアマヒルダ。私も文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、それよりも一つ気になることがあった。


「警備兵長さん、どうして私たちが犯人でないと分かったのかしら?」


 もちろん私たちは犯人ではないのだが、その証拠を出せと言われてもそれはまた無理な話だ。つまり彼からしたら私たちが犯人とも犯人ではないとも判断できないはずなのだが、すぐさま私たちを犯人ではないと断定した。その不可解さが、私の好奇心を妙にそそり立てていたのだ。

 そんな私の問いを聞いた警備兵長は、ドカッと椅子に座ると私たちにも同じように椅子に座るように促した。


「……嬢さん方も冒険者なら関係あることだから、話しておこうか」

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