第19話 『アッコン陥落の嘆き』を謡う吟遊詩人1

「アッコン陥落 あれは最後のイエルサレム王国だった」 十字軍の国だった


散っていった・・イエルサレムに作られた国々 最後の王国

それは吟遊詩人の少年が謡う遠い記憶の出来事


終わりの時に 聞こえるのは 喪う者たちの嘆きの声

それは嘆きの歌声


十字軍という名のもとで熱狂する人々が 作り上げし王国

聖なる地 祈りを捧げた者達

今は滅びの時を迎えた エルサレムの王国 最後のアッコンの地


遠い地シオン(エルサレムにある丘、エルサレムの別名)での夢

シオンから追われてゆく 奪い返したかった、あのシオンの地


敵に追われて、逃げまどう人々は 追われて 昔、住んでいた海の彼方の国々へと

押し戻される


ある者達は殺され 血の海に沈み

若き娘や子供達は囚われる


生き延び、逃げ延びた者達は 互いに慰めあいながら

逃げる船の中で揺られていたのだ


古(いにしえ)より これらは繰り返されてきた事

幾つもの王国が生まれては滅び 消え去ってゆく


例えばシュメール人の末裔、ハンニバル将軍のカルタゴでも・・

ソロモン王国、古代ユダヤ人達の王国でも・・


吟遊詩人の少年は楽器のリュートをつま弾きながら

最後の砦となったアッコン陥落の歌を謡っている


まだ、火縄銃も大砲もない それよりも ずっと前の時代の御話

騎士団がエルサレムの最初の本拠地を失い、エーゲ海の島々で戦っていた頃


歌いながら 吟遊詩人の少年は思い出す

二人の幼い子供の事を…


人々の死体 血の海と悲鳴の中

物陰に身を潜ませて 震えて怯えた子供達

「パパ・・ママ・・エドモンドお兄ちゃん怖い、怖いよ」

「声を出した駄目だよ マリアン見つかるよ」

小さな二人の兄妹の子供は見つからぬようにと崩れた壁の傍でうずくまっていた


何処からともなく、現れたのは吟遊詩人の少年 艶やかな長い黒髪の子

「おや、そこで隠れてるいのは 誰かな うふふ」


「貴方は 前に会った? 祭りの時の吟遊詩人のお兄ちゃん」 

にっこりと笑顔の吟遊詩人


「うん、そう 良く覚えていたね」

長い黒髪を編みこんで 変わった衣装を着たの少年


廻りは惨劇 悲鳴が響き、肉片と血の海だった 

煙が漂い、人の肉が焼ける異臭もする


「こんな修羅場、戦場に取り残されて可哀そうに・・ね」


「吟遊詩人のお兄ちゃんは? こんな処で大丈夫なの」子供達が驚いて問いかけた


「ふふ 今は 此処ね 僕の狩場でもあるから くすくすっ」

吟遊詩人の少年は 子供達の問いかけに そう答えて、言葉を返す



~12月22日 


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