ぼくはきかいにんげん。
ゆづき。
プロローグ ぼくはうちゅうじん。
ぼくは人間じゃないのだ、と思う。
最初にそう思ったのは小学5年生の宿泊体験学習の時だった。
「みずき、あのね……内緒にして欲しいんだけど……」
クラスメイトのユカちゃんが態々ぼく一人だけ呼んで言ったのだ。
「私ね、岬くんのことが好きなんだ」
ぼくは、ユカちゃんのことも岬のことも同じくらいに好きだった。だから、「へぇ、そうなんだ」くらいにしか思わなかった。けれど、ユカちゃんは続けたのだ。
「だから、お願い!協力して!」
顔を真っ赤にしてそんなことを言うユカちゃんに戸惑った。協力って何?よく分からないけれど、大好きなユカちゃんが困っているなら助けてあげたい。
「わかった」
そう言うと明るい笑顔で「ありがとう!」と言ってくれた。そうしてぼくが『協力』した(具体的にしたことといえば「好きなら好きって言えばいいと思う」と言ったくらいだった)結果、2人は『お付き合い』をするようになったらしい。
それがクラスの皆の何かに火をつけたらしい。宿泊体験学習が終わる頃にはクラスの大半が誰かと『お付き合い』をするようになっていた。
「ねー、みずきー!みずきは好きな人いないの?」
その日を境にそんな質問が増えた。ぼくは皆のことが好きだけれど、そう言ってしまうと皆と『お付き合い』をすることになってしまう。『お付き合い』をすると手を繋いで出掛けたり、相手の誕生日やら付き合い始めて何ヶ月やらでお祝いをしなくてはならないらしい。それを全員分やらなくてはならないなんて!楽しそうではあるけれど、お金が吹っ飛んでしまうのが惜しいのでやめておこうと思った。
「うーん……ぼくは、やっぱり…………シャーロック・ホームズかなあ……」
ぼくの好きな本の登場人物ランキング不動の1位シャーロック・ホームズ。別に『お付き合い』をしたいわけじゃない。いや、寧ろしたくない。
退屈だからと言ってコカインを打つような男と仲良くできるかと言われたら返事は即答でNOだ。
けれど、見ているだけで癒される。だって、かっこいいもの。出来ることならば、221Bの部屋の壁になりたい。見守るだけでいいのだから。
「そういうことじゃないよー」「もう、みずきったら、照れ屋なんだから〜」
はて、照れ屋とはなんのことだろう。ぼくは首を傾げる。
「まぁ、みずきにもそのうちわかるよ」
頭を撫でられて何故か虚無感に襲われた。
ぼくは皆を好きなのに。皆はぼくを嫌っているわけじゃないのに。
ぼくだけ違う言語を話しているみたいで気味が悪かった。
ぼくは、宇宙人なのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます