第3話
それから一年半の間も、私は何をするでも無く家からほとんど出ることも無く過ごし続け、アカリはそれでも変わらず優しく私に寄り添い続け、しかしナナは、家にいる時間がやけに減っていった。
不審に、そして不安に思いながらも、私はずっと何も話し掛けられずにいたのだが、不登校ながらも卒業することになったある寒い朝、昼過ぎに起きる癖のついた私がまだ深い眠りの中にいると、部屋の扉が突然開かれ、
「ミキ!起きろ!お父さんが帰ってきたぞ!!」
その大声に、ナナと二人で見たあの「本当の父親」が来たのかと思い、寝ぼけた頭の中でアカリをいじめてたという言葉がぐるぐると回り出し、あの人がここまで追ってきてまたアカリをいじめたり、私のこともいじめるんじゃないかという恐怖に襲われ、私は布団の中に潜り込んで丸まって震え出した。
が、
「起きろって!!」
むりやりに布団がはがされ、
「いやぁっ!?」
大声を上げて怯える私の前にいたのは、しばらく関わらないうちに何だか少し体がたくましくなった気のする、口元に髭をはやしたりしている、黒いスーツ姿のナナであった。
「今日から俺はお前のお父さんの、マモルだ」
「は……?お……とう……さん……?マモル……?」
「あぁ。
この一年半でやっと体も完全に男になったし、それに伴う裁判所とか役所とかの手続きも済んだ。
あとはアカリと籍を入れるだけだ。
長い間お前をほったらかしちまってごめんな。
男になる手術ってのがまた、想像以上に過酷だったんだよ」
そう言って笑うナナ、いや、マモルの顔や仕草は、恐らく知らない人から見たら元が女だなんて気付きもしないほどに、男のそれであった。
「いや……えと……あの……」
寝起きにこんな重大発表をされて混乱しない人間などこの世にいるだろうか。
この朝のことは、マモルのデリカシーの無さを語る上で未だに必ず引き合いに出されるが、当のマモルはいつでも豪快に笑って背中を叩いてきたりするだけで、私はため息まじりの呆れ顔、アカリはそれに加えて微笑ましく愛しげな表情を浮かべるのであった。
「さぁ、ミキも一緒に市役所に行くぞ!
アカリと俺の婚姻届を出すんだ!
大事な結婚記念日だ!
みんなで行かなきゃ意味が無いだろ!?」
そう言ってマモルは私を、本当は卒業式に私に着せるつもりでアカリが買っていた礼服に手荒く着替えさせると、アカリを呼んだ。
「何もここまでしなくても……」
滅多に着ている姿を見ない高級なフォーマル・ワンピース姿で現れたアカリに、
「本当はウェディングドレスでもいいぐらいだぞ?
でもそれは結婚式に取っておかなきゃいけないしな。
今日もきれいだよ、アカリ」
駆け寄ったマモルが強めのキスをした。
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