第6話
その後も宴もたけなわとなるまで、アンジョレッタは同様のやり取りを幾人もの目ぼしき男たちと交わして回り、翌晩からは夜中にこっそりアッパルタメントを抜け出しては、毎晩違う男と、多い時には一晩に三人もの男たちと逢瀬を重ねる日々が始まりました。
「あぁ、そうよ、これがあたしのルネサンス……!さすが大都会はいい男がいっぱい……最高……!」
誰もいない路地裏を小走りに帰路を急ぎながら、朝日に照らされ一人小さく歓喜の声を上げるアンジョレッタの顔は、今までに無い程に輝いておりました。
しかし、そんな生活が一年余りも続いたある朝のこと。
アロンツォには三人の娘がおり、彼女たちは既に結婚していて近所の別邸にそれぞれの家族と共に暮らしておりましたが、その三人が揃って家政婦たちのアッパルタメントに訪れ、ひどく憤慨した様子でアンジョレッタを呼び出しました。
父親同様、普段とても穏やかで優しく、怒ったり家政婦に厳しくあたったことなど一度も無い彼女たちのそんな様子に家政婦たちは驚き、アンジョレッタを慌てて叩き起こし三人の前に突き出すと、ご婦人方はその場では何も言わぬまま、眠い目をこすっているアンジョレッタを引きずって出ていきました。
アロンツォ邸を出てフィレンツェ市街地へと入った彼女たちは、やがてとある路地裏の黒塗りの扉を開いて中に入りました。
その薄暗い小部屋の奥には、一人の黒ずくめの老婆が水晶を前に座ってこちらを見据えており、そこでやっとアンジョレッタの首根っこから手を離した長女のグラツィエッラ、次女のニヴェス、三女のフェリチタが順に口を開きました。
「やってくれましたわね、このメス犬が……!」
「それもわたくしたち全員の夫と」
「しかも夫を問いただせば、フィレンツェ中の若い上流階級の男たちはみんなあなたの世話になってる、ですって?由緒正しきベルティーニ家は娼館などでは御座いませんわ!」
彼女たちの夫は揃って
厳しい叱責が次々に浴びせられる中、反省を装って最大限にうつむきながらも、適当な隙きを見て逃げればいいか、などと軽い気持ちで聞き流していたアンジョレッタでしたが、ふいに耳に届いた、
「お前のような
というグラツィエッラの言葉にはっとして顔を上げると、奥にいた老婆が目を見開きアンジョレッタを睨み付けておりました。
「さぁ!ウィヴェル師!早くこの女に鉄槌を!」
「色狂いの売女にふさわしき罰を!」
ニヴェスとフェリチタが後に続けると、奥の老婆は頷き、水晶に手をかざしながら低く重苦しい声で何かまじないの言葉を唱え始め、アンジョレッタはその地の底から這い出してくるような恐ろしい声に初めて全身に震えが走り、床に手を付き額を床に擦り付けて必死に大声で侘びの言葉を幾度も繰り返しました。
が、誰一人としてその言葉に耳を傾けるものもなく、やがて老婆はふいに静まり大きく息を吸い込み、アンジョレッタを指差すと魔物のような目で睨み付けながら叫びました。
「お前のような色狂いは、永遠に毎夜違う男と交わり続け、色に溺れてもがき苦しみ続けるがいい!!」
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