第3話

「着いたぜ」


山に囲まれた広い敷地内に大きなログハウスと大きな倉庫、屋外の炊事場やバーベキューセットなども転がる、キャンプ場のような光景にさらに心を踊らせながら車を降りると、開けっ放しの玄関からよたよたと黒い犬が歩み出てきてちょこんと座った。


「もしかして猟犬?」


「昔は多少な。でももう足の悪いジジイだし、だいたい今時の狩りに犬なんか連れて行くもんでもねぇよ」


「そうなんだ……。名前は?」


尋ねながら、優しく尻尾を振っている見るからに大人しそうな黒犬の前に歩み寄り、そっとあごを撫でると、黒犬は何度か僕の手を舐めた後、叔父さんを仰ぎ見た。


「ガンジャだ」


横を通り過ぎるついでのような手付きで黒犬の頭を荒く撫でながら答えた叔父さんは、


「ガンジャ?変わった名前だね」


「気になるなら後でググれ。とりあえず中入って適当に待ってな」


そう言い残して、どこかに電話をかけながら、大きな南京錠で固く扉を閉ざされている倉庫へと向かった。


真新しい雰囲気の全面フローリングの広い家に入り、大きなベッドの置かれた寝室や、とてもこんな山奥に似つかわしくないDJブースの設置された部屋などを横目に、リビングに辿り着いた僕は、ひとまず大きな一枚板の低いテーブルの前に座った。


人工的な音など何も聞こえない不思議な空間の中を、蝉の声が大音量で流れ込んでくる。


適当に待ってろと言われたものの、初めて来る人の家で何をしたらいいのかもわからず、変わった装飾の施された室内や、大きな窓から見える大自然的な景色などを見回しながら、そうだ、と思い出し、背のリュックを降ろしてスマホを取り出した。


「あ、今着いたよ。うん、大丈夫。今から虫取りにでも行こうかと思ってるん……あれ?母さん?おーい。……あ」


スマホを耳から離して画面を見ると真っ暗になっており、どこに触れても何の反応も無かった。


「あぁ……新幹線で充電できなかったんだよな……」


新幹線では通路側の席になってしまい、窓際の席に座った大柄な男の向こうにあるコンセントを使い難く、諦めてそのまま動画を見たりゲームをしたりしてしまったのだ。


「ついでにガンジャも調べようと思ってたのに……。仕方無いか、とりあえず充電しよ」


充電器を取り出しスマホを繋いで、部屋の隅に見付かったコンセントに差し込んでいると、


「おい、今から行くぞ。民家の近くで目撃されたってんで、暗くなる前にカタを付けたいんだとよ」


康明叔父さんが、猟銃を片手に窓の外に立っていた。







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