31、森

 俺とレーナは薬草採取の依頼を受けて王都の南にある森へとやって来ていた。

 俺達の受けた依頼は、ポーションの材料されている薬草、リーラの花を採取すると言う物であった。

 花自体を傷口に塗って使っても、傷の治癒が見込め、ポーションとして使えば体力の回復も望めるためにかなり需要がある。

 そして、本来ならこのような形で冒険者に依頼が出されることはない。


 リーラの花はどこにでもある森の中に生えている。

 そのため本来は、リーラの花を専用で採取する人がいるのだが、ここ最近リーラの花が取れる王都南の森にモンスターが出没しており、普通の人には依頼できなくなったため俺たち冒険者に依頼が来たわけだ。

 それに、モンスター討伐依頼も出ているため、そう遠くないうちに、本来採取をしている人に依頼を出せるようになるとのことだ。


「サージ様、モンスターとか出ませんよね」

「レーナさん、怖いの?」

「いえ、そんなことは。ただ、もし本当にそうなったらと思うと緊張してきてしまって、えへへへ」


 笑って誤魔化すレーナ。


「それとサージ様、さん付けはやめて下さい! サージ様は私の師匠で、伝説の賢者様なのです。そんなお方にさん付けなんてされては困ります」

「ですがレーナさんは公爵家です。そしてお、僕は子爵家ですよ。貴族としての立場が違います」

「そうかもしれませんが、私は公爵家の出来損ないですよ。そんな人のことを気にする人なんていませんよ。それにサージ様は私の師である前にお友達ではありませんか。そのような気にしないでください。それと、私と二人の時は僕でなく、ハクア様と話しているときと同じように話していただいていいですよ」

「レーナがそういうならお言葉に甘えさせていただくよ。それならレーナも俺のことを様付けで呼ぶなよな」

「それはダメです。だって、私にとってサージ様は憧れの存在なんですから」


 そういうレーナは無邪気な笑顔を俺に向けてくれた。

 その笑顔が可愛く、俺は少しドキドキしてしまった。

 転生前では考えられなかった感情、これが青春と言う物なのかと思ってしまう。


「分かったよ」


 俺はそれだけ答える。

 

 森の中はたわいない話しが出来るくらいには平和であった。

 小動物たちが茂みからこちらを見ていたり、少し大きな動物の鹿たちが俺達を見て逃げ出したりと、凄く穏やかであった。

 本当にこの森にモンスターがいるのかと疑問に思うくらいにだ。

 そうして歩いていると、


「サージ様、リーラの花はどれですか?」


 周りの草花を見て聞いてくる。

 俺は、辺りを見渡して赤色の花を採る。


「これがリーラの花だよ」

「これですか。とてもキレイですね」

「そうだな。でもこの花はキレイなだけじゃないんだよ」

「それくらい知っています」


 少し頬を膨らませながら言ってくる。

 怒っているんだろうけど全然怖くないな。

 そんな感じにリーラの花を採取していく。

 そして、日が傾き始めた頃俺達は既定の本数集め終えた。


「これで最後だな」

「はい」


 俺達は手を土まみれにしながら夢中でリーラの花を採っていたためか、時間が過ぎるのを忘れていた。

 そのため、俺達が空を見ると、空の色が少し薄っすらと赤く染まってきていた。


「もうこんな時間か」

「早いですね。いつもは時間の過ぎるのをもう少し遅く感じますのに」

「楽しい時間はすぐに過ぎるってやつじゃないか」


 よくわかる。

 実家にいたときの毎日の特訓、それは楽しくていつも時間を忘れて励んでいた。

 そのおかげでとよくなれたんだけど、あの時は本当に楽しかったなと思い、今のレーナもあの時の俺と同じ気持ちなのだと感じていた。


「そろそろ戻ろうか」

「そうですね。これだけあれば十分ですね」

「ああ、十分すぎるだろうな。少し取りすぎぐらいだぜ」


 などと二人で話しながら帰り支度をしていると、


「誰か! 誰か助けてー!」


 森の中から少女らしき叫ぶ声が聞こえてきた。

 俺は何かと思い周囲に探索魔法を使ってみる。


「サージ様、今の声は!」

「かなりやばい状況みたいだ」


 探索魔法で見えてきたのは、大型モンスターであるタイガーウルフが、尻もちをついている少女に襲い掛かろうとしている場面だった。

 かなり覚えているようで、まともに戦闘など出来る状況ではないし、出来ないだろう。


「レーナはここにいてくれ。少し様子を見てくる」

「嫌です。私も付いて行かせてください!」


 レーナの目には強い意志が感じ取れる。

 森に入った時の緊張はどこに行ってしまったのかと聞いても良かったが、今はそんな時間はない。

 探索魔法で感じ取れる限りでは一時の猶予もない。


「いいよ。でも俺から離れるなよ」

「はい! 分かりました」

「では急ぐとするか」


 俺はレーナをお姫様抱っこ。


「っえ!」


 顔を赤くして驚いているレーナ。

 ただ、今はそんなレーナにかまっている暇はない。

 俺は強化魔法を使い全速力で声のした元へと向かったのだった。

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