第2話

「こいつはすごいな。ここ何年かの大飢饉だいききんで今にも江戸でも打ち壊しが起きそうだというのに、よく用意できたもんだね」


客間で向かい合う二人の間には、甲斎が言った通りの時刻に届いた豪華な懐石料理が並べられ、彦衛門は驚きの声を上げた。


「私も普段は質素倹約にしているんだがね、まぁ旧知の友と久方振ひさかたぶりに会うのだ、たまには、な。まぁかくも、有り難くいただこうか」


甲斎がはしを取ると彦衛門もそれにならい、とても食べ切れそうにも無いような小鉢や刺し身、飢饉の影響で価格が高騰している米を山盛りにした椀などに箸を付け始めた。


「しかし江戸城勤めのお前ですらその様子では、飢饉の猛威はいよいよ差し迫っていると見える」


美味そうに次々に口へと運ぶ彦衛門の姿に、甲斎が苦い表情で笑うと、


「うぅーん、まぁ……飢饉そのものよりも、飢饉によって生じてる各地の混乱を田沼様の政治のせいにして失墜させようとする動きが強くなってるんでね。田沼様の下で働く者があんまり目立って高い店なんかに行くのははばかられているんだよ」


彦衛門がため息交じりに首を振った。







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