女神聖教七天使徒『聖女』エレナ&『聖典泰星』リリィ・メイザース③/ドラゴニュート

「はぁ、はぁ……あーくそ、だるい」


 エルクは毒を吸い込んでしまい、不調だった。

 死に至るような毒ではない。だが、腕や足に重りを付けたような、薄曇りの視界に兜を付けて視界を遮ったような感覚だった。

 目を擦るが、ぼんやりする。少し熱も出てきたようだ。


「風邪っぽくする毒か……吸い込んだのが少しでよかった。気付かず大量に吸い込んでたら、一歩も動けなくなってかもしれない」


 十階層への階段を上る。

 この階層が最後。エレナとリリィ、人質となっているエマたちがいる。

 エルクは最上階のドアの前に立つ。すると、ドアが自然に開いた。

 

「エルクさん!!」

「エマ!! 無事か?」

「はい。私たちは無事です、でも……」

「俺は平気。それより……」

「ふふ」


 不思議な部屋だった。

 第十階層は、何もない訓練場のような空間だった。

 あるのは、エマや数十人の人質たちがいる観客席のような場所、リリィとエレナが離れた場所に立ち、部屋の中心には妙な鎧を着たヒトがいた。


「───……!」


 否、ヒトではない。

 漆黒の鎧を着た、ヒトのような何か。

 身長は二メートル強。カリオストロに匹敵する体格だが、ヒトではない。顔は漆黒の鱗、大きな口には牙がびっしり生え、頭にはツノが二本、目が真っ赤にギョロついている。

 一言で表すなら───ドラゴン。

 リリィは、どこか誇らしげに言った。


「わたしの最高傑作。『ドラゴニュート』……エルク、倒せる?」

「…………」


 エルクは、チラリとエマたちの観客席を見る。

 すると、エレナが言う。


「ここまで来て、人質を盾にするような真似はしないわ。ふふ、私とリリィはドラゴニュートのサポートをする。エルクくん、私とリリィの力を受けたドラゴニュートを、倒せるかしら?」

「……一つ、聞いていいですか」

「ん、なぁに?」

「エレナ先輩たちの目的って……何なんですか? なんで学園を襲ったんです?」


 エルクは聞く。

 答え次第では、エルクの今後にも関わる───。


「自分が原因なら、自分が学園から離れれば───なんて答えを出したら、あなたのいない学園は間違いなく崩壊するわね」

「!!」

「エルクくん。私たちの目的はあなたの抹殺……でもね、今はそれだけじゃない。ピアソラはそれしか考えてないけど、S級危険組織が合流して流れは変わった。私たちの目的は……『理想の世界』よ」

「……は?」

「プルミエール騎士団は『秩序』、夜祭遊女は『自由』、暴王は『混沌』……そして、女神聖教は『愛』のために手を組んだの。ね、わかる?」


 エルクは、意味がわからない。

 秩序、自由、混沌、愛。それらを掲げるS級危険組織が手を組んだ。はっきり言って異常だ。交わるわけがない。


「ピアソラは約束したの。女神ピピーナ様を召喚して、それぞれの『世界』を作る約束を」

「……は?」

「この世界はピピーナ様が作った。なら、あと3つくらい、世界を作れるんじゃない? 1つの世界を奪い合って殺し合うより、手を組んで自分たちが望む世界を手に入れる方が利口でしょ?」

「…………」

「ふふ、無理だと思うよねぇ? 私もそう思う……でも、この話をすれば、三組織のトップはほんの少しだけ心が揺れた……つまり」


 エレナは、自分の頭を指でトントン叩く。

 エルクはハッとして歯を食いしばった。


「洗脳、か……!!」

「正解。ピアソラのスキル『洗脳』で、女神聖教に従うように誘導した。あとは、私たちのお願いを聞いてもらいながら自由にやらせてる。自分たちの世界を実現するためにね」

「───……っ!!」


 エルクは拳を握り、叫んだ。


「まだわかんないのかよ!!」

「「?」」

「考えてみろ!! ピピーナがこの世界に来れるわけないだろうが!! あいつは言ってたぞ? こっちの世界に自分は干渉できないって!!」

「できるとしたら?」

「……はぁ?」

「今は言えないけど、私たちには『手段』がある。面倒くさいS級危険組織を手懐けて、計画は順調に進んでる……でもねぇ? 最大の障害はやっぱり、エルクくんなの」

「……」

「ね、エレナ。お話長いー」

「ああごめんね。エルクくん、もう一度だけ聞くね?……一緒に来ない?」

「断る」


 エルクは両手を広げ、ブレードを展開する。

 そして、エレナとリリィに告げた。


「なぁ、知りたいと思わないか? 俺、ピピーナから頼まれ事されてるんだよ」

「……頼まれ事?」

「ああ。女神聖教、七人のチートスキルを持つ連中を始末しろってな」

「……そんなの信じると思う?」


 エレナが右手をドラゴニュートへ向け、リリィも杖を向ける。


「『愛言葉エレジー』」

「『出力100%起動ドラゴンブースター』」

『───!!』


 ドラゴニュートの目がカッと開く。


『ウォォォォォォォォォォォォッ!!』


 雄たけびを上げ、巨大な突撃槍をクルクル回転させてエルクへ向ける。

 エレナの強化と、リリィの強化により爆発的な戦闘力を有した。

 対するエルクは、まだ毒が抜けていない。念動力も不安定だ。

 だが……関係ない。


「じゃあ、始めましょう。せいぜい、頑張りなさい」

「ドラゴニュート、やっちゃって」

「ふん。俺がこんな人形なんかに負けるわけない」


 エルクとドラゴニュートの戦いが始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る