女神聖教七天使徒『愛教徒』ラピュセル・ドレッドノート⑥/カヤのスキル

「ぐぎゃぁぁぁアァァァァァッ!?」


 ミゲルの両手がゴキゴキと曲がらない方向へ曲がっていく。

 念動力による『拷問』……かつて、ピピーナとの授業で習った、『どこをどうすればヒトの心をへし折れるか~良い子の拷問講座~』で習った通りにやってみた。

 右腕の指を、一本ずつ曲げて爪を一枚剥し、肘関節をゆっくり曲げていると。


「頼む頼む頼む頼む!! ホントに知らねぇ知らねぇんだぁァァァァァァッ!!」

「うーん……でも、せっかくの手がかりだしなぁ」


 ぴりぴりと、右手の小指の爪が剥がれ、さらに筋繊維が断裂していく。

 ミゲルは痛みに涙を流すが、念動力で拘束されているためのたうち回ることもできない。

 なぜ、グラウンドに来てしまったのか。今では後悔しかない。


「信じて信じて信じてェェェェェェェェ───ッ!!」

「……わかったよ」


 関節が元に戻った。

 剥げた爪から血が出るが、エルクは気にせずミゲルに言う。


「推測でいい。ラピュセルの元に行くにはどうすればいい?」

「ど、どうすればって……ら、ラピュセルのいる大聖堂は、そのッギャァァァァァァ!?」

「場所、知ってんじゃん……嘘つき」


 念動力で爪を一枚剥し飛ばす。

 ミゲルは観念したのか、話しはじめた。


「うう、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……言います。言いますぅ」

「最初から言えって。で、どうすれば行けるんだ?」

「……ラピュセル様のいる大聖堂には、決まった手順でドアを開けないと入れないんだ」

「決まった手順?」

「ああ。ここは、ラピュセル様の作ったダンジョン……ドア同士が別の空間に繋がっていて、大聖堂のドアだけが、一定のルール下で開くようになっている。方法は簡単だ、同じドアを二回連続で開き、三回目は大聖堂裏の物置小屋のドアを開けるんだ。そうすれば、大聖堂内に入れる」

「二回連続か……そりゃ思いつかなかった」

「これが正規のルート。もう一つは、ある決まった『ルーク』のダンジョンモンスターを倒すと手に入る、『キャスリングピース』って駒を手に入れるんだ。それを持っていると、どのドアを開けても大聖堂に繋がる」

「へ~……って、けっこうモンスター倒したけど、そんなのいなかったな」

「じゃあ、まだ見つけてないんだろ。特徴は、通常のルークは黄土色だけど、特殊ルークの色は金色だ。一定時間経過すると、何体か放たれる」

「……けっこう面白いな」

「だろ? じゃあ、もう放して───」

「それはダメだ。嘘だったらブチのめすからな」

「うぅ……」


 エルクはミゲルを拘束したまま歩きだす。

 大聖堂はグラウンドの反対側。正規ルートで行くか、ルークを倒して進むルートを選ぶか。


「……ダンジョン、やっぱり面白いな」


 エルクは、いつの間にか笑っていた。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 カヤは、エルクの作った鉄の棒をクルクル回して構えを取る。

 棒術の心得は当然ある。カヤのスキルは『身体強化ドライブ』で、一時的に身体能力を三倍に引き上げる。レベルは66で、今のカヤには7分が強化の限界だった。

 敵は、ニコニコしながら両手を腰に当てる少女、アマリリス。


「ね、あなた「悪いけど、喋りしないから」


 ドライブ発動。

 カヤの身体能力が三倍となり、一気に決めようと棒を手に突進。

 狙うは喉。柔らかい喉を棒で突けば、即戦闘不能に持ち込める。


「ッシ!!」


 射程内に入り、迷いのない突きを繰り出す───が。


「覇っ!!!!!!!!」

「!?」


 アマリリスの口から『衝撃破』が放たれ、カヤは吹き飛ばされ床を転がった。

 すぐに立ち上がり棒を構えるが───……耳の奥がキーンと響き、どろりと鼻血が出た。

 眩暈がしてフラつきかけるが、気合を入れてアマリリスを睨む。

 アマリリスは、ニコニコしていた。


「効いたでしょ? わたしの『テラヴォイス』……『拡声』がスキル進化したのよ。すごくない?」

「…………」


 声量を大きくする『拡声』のスキル進化、『テラヴォイス』……能力は、声を衝撃波にする。この近距離でのテラヴォイスは、命に関わるレベルの衝撃だった。

 カヤは鼻血を拭い、クルクルと棒を回す。


「面倒───……でも、もう見切ったわ」

「ん~? まだ諦めてくれないの? あなた、すごく強いんでしょうけど……ね、試練を受けない?」

「受けない。それと、あなたとお喋りする気、ないから」


 カヤは腰を落とし、静かに呟いた。


「スキル領域展開───『虚空転身』」


 空き教室内に、カヤのスキル領域が展開される。

 空間系スキル。ダブルスキルであるカヤの、もう一つのスキル。

 アマリリスは、大きく息を吸い、目の前にいるカヤに向けて最大音量の声を。


「遅い」

「ごっが!?」


 いきなり背後に現れたカヤが、アマリリスの頭に鉄棒を叩き付けた。

 そして、カヤは足払い。倒れたアマリリスの喉を踵で潰す。


「がっひゅ、ひゅぅ、ひゅぅぅ!?」

「声を出すことで発動するスキル。なら、喉を潰せばおしまい───……じゃあね」


 身体強化による拳が、アマリリスの顔面に突き刺さった。

 ピクピク痙攣し、アマリリスは気絶……すぐ、溶けるように身体が消えた。


 カヤの二つ目のスキル、『虚空転身』は、空間内なら自在に転移できるというスキル。だが、カヤしか移動できず、一度見せると熟練の相手なら対処が容易いという弱点もある。

 アマリリス程度を瞬殺するには役立つが、長期戦には向かないスキルだ。

 カヤは、出てきたドアを見つめる。


「また合流できるかしら……それに、ヤト様が心配」


 カヤは意を決し、ドアに手をかけた。


 ◇◇◇◇◇◇


 ニッケスとメリーは、寮内のキッチンで朝食を食べていた。

 

「兄さん……こんなことしてていいんですか?」

「いや、そんなこと言ってもよ……」

「さ、たーんとお食べ!」


 コックのマーマが食事を大量に用意してくれるのだ。

 マーマは、ニコニコしながら言う。


「異常事態が起きてるのはわかるけどね、まずはいっぱい食べてお腹を満腹にしなきゃねぇ。それに、お前さんたちヒヨッコがチョロチョロしても迷惑だしねぇ」

「「ヒヨッコ……」」

「仲良し兄妹ちゃんは、ここでのんびり待ってな。ちゃんと、事態が収拾されるまでね」

「「…………」」


 メリーとしては、動きたかった。

 ニッケスとしては、せめて同寮の仲間の無事を確認したかった。

 だが、マーマは許さない。ヒヨッコが外で戦うなど、愚の骨頂だと思っている。

 すると───……キッチン内に、『ポーン』の銅兵士が数体現れた。


「敵!!」

「うおぉぉ、メリー、任せた!!」

「マーマさん、下がって「墳ッ!!」


 ズドン!! と、マーマの正拳が銅兵士の鎧を貫通した。

 ビキビキと盛り上がる筋肉は、ただ鍛えただけじゃない。

 マーマは、全身の血管が盛り上がり……両腕に、『紋章』が浮かび上がる。


「ここは、調理をする神聖なキッチンだ。部外者が土足で入るなんて、あたしが許さないからね……!!」


 マーマは、ダブルスキル。

 一つは『調理』で、もう一つは……世界で七つしか確認されていないスキル、『憤怒ラース』だった。怒れば怒るほど身体能力が増す強力なスキル。

 さらに、両腕の温度が上昇し、真っ赤になっていた。


「「…………」」


 ニッケスとメリーは、邪魔にならないよう隅っこに移動していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る