女神聖教七天使徒『愛教徒』ラピュセル・ドレッドノート④/大暴れ
ソアラは、一人で校舎の廊下を歩いていた。
戦闘服をしっかり着て、しっかりした足取りで。
早朝なのに戦闘服を着ている理由は単純。昨夜、戦闘服の裾がほつれ、自分で直した後、確認のために着てそのまま寝てしまったのだ。
起きて部屋を出たら、なぜか学校の廊下だった。
「……おなかへった」
なんとなく……異常事態ということはわかった。
何故なら、ソアラは手に『ナイト』の人形を持ち引きずっていたからだ。
いきなり現れた『青いナイト』は、問答無用でソアラに襲い掛かってきた。
なので、人形に飛びつき、強靭な顎で兜を噛みちぎり咀嚼……両手に伸びた鉤爪で突き刺した。まだ完全に破壊されていないのか、人形はバタバタ暴れている。
「おいしくないけど……食べちゃお」
牙が生え、舌に紋章が浮かび上がる。
七つしか確認されておらず、世界で二十人もいない特殊スキル、『
ばり、ぼり、ごき……と、ナイトを食べる音だけが響く。
そして、半分も食べないうちに、ナイトは粒子となって消えた。
「あー……もったいない」
「あなた、何してるの」
「?」
ソアラが振り返ると、ヤトがいた。
同じ寮で自己紹介もしたが、まだ顔見知り程度の仲だ。
ソアラは立ち上がり、首をかしげた。
「わかんない。部屋から出たらこの廊下だったの」
「そう……異常事態が発生してるみたいなの」
「そうなんだ。じゃあ、いっしょに行こ」
「……いいわ」
ヤトはすんなり受け入れた。
そして、六天魔王を抜き───……静かに言った。
「覗き見とは、趣味が悪いわね」
「あ~……クヒヒ、バレちまった」
廊下の柱の影から出てきたのは、陰気臭い少年だった。
女神聖教のローブを着て、ニヤニヤしながら口をモゴモゴさせる。ガムを噛んでいるのか、くちゃくちゃと嫌な音をさせていた。
女神聖教、『愛教徒』部隊隊長ミゲル。
ミゲルが指を鳴らすと、同じローブを着た少年少女が、廊下から教室に繋がるドアから一斉に現れた。
「……あなたたち、今年の新入生ね」
「ご名答。くひひ、女神聖教に入った裏切り者!ってか?」
「フン……精神支配されている奴に、何を言っても無駄そうね。まぁ……斬ればいい」
「甘いな。オレは洗脳を受けちゃいねぇよ。くっだらねぇ学園生活より、こっちのが面白そうだと思ったから、女神聖教に入ったんだ。オレみてぇに自分の意志で入ったやつも多いぜ?」
「知ってる? 洗脳って、洗脳されている自覚がないそうよ」
ヤトは六天魔王を構える。
ミゲルの部下たちも武器を構えた。
「これは試練だ。試練を乗り越えた者だけが、ラピュセル様の最終試練を受けることができる」
「はぁ?」
「オレたち女神聖教使徒の役目は、選別」
「……おなかへった」
「さぁ、遊ぼうぜ───……やれ」
ヤト、ソアラに向かって、女神聖教の使徒たちが襲い掛かってきた。
◇◇◇◇◇
偶然、学園の武器庫に入ることができた。
予備の防刃コートや双剣、鞘にベルトがあり、エルウッドはそれを身に着ける。
非常事態ということで、借りても問題ないだろう。
装備を身に着け、エルウッドは深呼吸……気合を入れなおし、武器庫から出た。
やはり、ドアは別な部屋に繋がっていた。
「訓練場……クソ、ここは第六訓練場か?」
学園に、訓練場は二十以上ある。
これだけ広いと、またあの《銅兵士》が現れるかもしれない。
同じドアを行き来するより、別の部屋のドアを開けて進めば外へ通じている可能性がある。エルウッドはそう考え、自分の位置から反対にあるドアを目指して訓練場へ踏み込んだ。
だが───……その、反対側のドアが開き、誰かが来た。
その人物を見て、エルウッドは止まった。
「……ロシュオ」
「よう、エルウッド」
女神聖教のローブを着て、腰には愛剣を差している。
纏う雰囲気でわかった。これは、エルウッドが知っているロシュオだ。
「……生きて、いたんだな」
「ああ。この通りさ」
「……」
エルウッドは、察した。
だが───……口に出すのが、怖かった。
それを知ったのか、ロシュオが言う。
「エルウッド、お前さ……こっちに来ないか?」
「……え」
「王族、次期後継者。息苦しいって言ってたろ? 平民になって冒険者としてやっていきたいって言ってたじゃねぇか。女神聖教なら、それもできるぜ?」
「…………ロシュオ」
「来いよ。お前なら、女神聖教の『聖使徒』待遇で迎えられる。また一緒にやろうぜ。それに、サリッサもいる」
「ロシュオ!!」
エルウッドは叫ぶ。
そして、歯を食いしばり、搾り出すように言った。
「きみは、全てを捨ててまで女神聖教へ行ったのか!? 女神聖教はすでに『S級危険組織』に認定されている!! この行為も、完全なテロだ!! きみは……テロリストなんだぞ!?」
「あ~……やっぱそうか」
「キネーシス公爵が知ったらどんなに悲しむか……公爵は、きみを心配して何度も手紙を送って来るんだぞ……」
「ま。オレはお前と違って……『捨てた』んだよ。新しい環境も悪くないぜ?」
「ロシュオ……エルクだって、キミたちを心配して」
「アイツの名前を出すんじゃねぇ!!!!!!」
ロシュオはいきなりキレた。
「エルク? はっ……エルウッド、お前知らないのか? オレはな、兄貴を殺そうとしたんだぜ? オレの、オレの意志でだ!! キネーシス公爵家の次期後継として、あいつの存在が邪魔だったからな」
「な、何を……」
「だがもういい。キネーシス公爵家の跡なんざくれてやる。オレは女神聖教の一員として生きていく。く、ハハハハハッ!! ハハハハハッ!!」
「…………」
「エルウッド。これが最後だ……オレと来いよ」
「行かなかったらどうするんだ?」
「無理やりにでも連れていく。お前の強さは、兄貴を仕留めるのに利用できそうだ」
「…………」
ロシュオは俯き───……ゆっくり、顔を上げた。
その眼は語っていた。
「残念だよ、ロシュオ。でも……お前は、ここで止める」
「ハッ……そりゃ残念」
ロシュオ、エルウッドは腰の剣に触れ───……ほぼ同時に飛び出した。
◇◇◇◇◇
エルクは、カヤと一緒に学園の廊下を走っていた。
「ねぇ、おかしいと思わない?」
「え?」
「人がいない」
エルクとカヤは立ち止まる。
カヤは、続けた。
「もうだいぶ日が上っている。朝食を食べて、学園へ行く人たちも多いはず。なのに……まだ、誰とも会っていない。これだけ広い学園よ? 2年生、3年生を含めて、全学年合わせて数千人以上いるのに」
「確かに……俺が会ったのは、学園長とヤト、お前だけだ。あ、そういえば三年生はいないとか校長先生が言ってたような」
「……いやな予感がするわ」
「同感。さっさとこのダンジョンを作ってる野郎のところへ行かないと」
二人は、再び廊下を歩きだす───……が。
「───え」
カヤが歩いている側の通路のドアが開いた。
空き教室。そこから、一人の少女がカヤの手を掴む。
「ふふっ」
「ッ!?」
そのまま手を引かれ、カヤは空き教室へ消えた。
「カヤ!!」
エルクが叫ぶが、もう遅かった。
カヤが空き教室に引きずり込まれ、すでに扉は閉じてしまう。
そして、耳元でシルフィディが叫んだ。
「エルク、前っ!!」
「!?」
「遅い」
拳を握った少年が、目の前にいた。
エルクは咄嗟に念動力で少年を吹き飛ばす。
少年は地面を転がるが、すぐに立ち上がった。
少年は構える。
「なんだ、お前……女神聖教か」
「その問いに意味はない。お前、裏切り者だな?」
「…………」
エルクは答えない。
代わりに、眼帯マスクを付けてフードを被った。
少年……ではなく、女神聖教の聖使徒カイムはニヤリと笑う。
「手加減はしない───……スキル領域展開、『ベアナックル』」
カイムを中心にスキルによる空間が発生。
互いの距離が一瞬で縮まり、すぐ目の前にカイムがいた。
「空間系スキルだ。くくく……ピアソラ様のおかげで、十五で空間を作れるまでレベルアップしたぜ? ただの腕力強化スキルが、マスタースキルまで進化したんだ。お前で試させてもらうぜ」
「…………」
「この『ベアナックル』の能力は、互いに一撃ずつ相手を殴り、最後まで立てた者が勝者となる。敗者はどうなると思う?……くく、死にはしないが、一時的に腕力が赤ん坊レベルに低下する」
「…………」
「さぁ、お前から打ってこい!!」
「…………じゃ、遠慮なく」
次の瞬間、念動力で強化した拳をまともに喰らったカイムは時速数百キロで吹き飛んだ。
顔面陥没、鼻骨骨折、頬骨と顎が砕け、歯がほとんど折れて口の中をズタズタにした。
殴られ、全身痙攣を引き起こし失神、さらに失禁。叫び声すら上げられず敗北した。
エルクはカイムを無視、カヤが消えた扉に触れる。
「くそ……カヤ」
「どうしよ、エルク……」
「…………なんか、けっこうイライラしてきた」
エルクは少しだけ後悔した。
ポセイドンの部屋に入った時、『お許し』をもらえばよかった。
でも───……もう、いいかと諦める。
「あとでいっぱい謝ろう……」
「エルク?」
と、ここで空き教室から、カイムの部下たちが一斉に飛び出してきた。
「か、カイム隊長!!」
「くそ、こいつだ!!」「みんな、やるぞ!!」「ええ!!」
全員、気合が入っている。
だがエルクは両手を広げ、念動力を発動───……廊下両サイドの壁が砕け、廊下に立っていたカイムの部下をサンドイッチするように押しつぶした。
一瞬で、二十人以上の生徒が押しつぶされた。
エルクは、ポセイドンに謝る。
「すみません。ちょっとだけ……学園、ブチ壊します」
エルクの念動力解放率、現在33%
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