はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう

プロローグ

 スキル。

 十歳になると、神殿が行う《スキルの儀》で授かる、神の祝福。

 どんなスキルを授かるのかは、神様次第。

 

「エルク。エルク・キネーシスのスキルは……《念動力》です」

「えっ」


 エルク・キネーシス。

 キネーシス公爵家の長男。彼の授かったスキルは《念動力》だった。

 エルクは青くなり、振り返る。

 そこにいたのは、弟のロシュオ、妹のサリッサだ。

 そして、ロシュオの祝福が始まる。


「ロシュオ。ロシュオ・キネーシスのスキルは……なんと、《剣聖》です!!」

「よおっしゃぁ!!」


 ロシュオは拳を突き上げる。

 すると、エルクを突き飛ばし一人の男性がロシュオの肩に手を載せた。


「やったなロシュオ。さすが我が息子だ!!」

「はい、父上!!」

「あ……」

「それに比べて、エルク……」


 父は、エルクを見て落胆を隠さなかった。

 念動力というスキルを手に入れたエルクに、興味を失っていた。

 そして、サリッサ。


「サリッサ。サリッサ・キネーシスのスキルは……なんと、《魔聖》です!!」

「きゃぁ!! やったぁ!!」

「……」

「おどき!!」

「うわっ!?」


 エルクを突き飛ばしたのは、美しい女性。

 女性はサリッサを抱きしめ、キスをする。


「さすが私の娘。ふふ、魔聖……あらゆる属性を意のままに操る、最強の魔法使いよ!!」

「お母様、わたし、やりました!!」

「ええ、ええ……うぅ、公爵家から二人も《エピックスキル》を持つ子が生まれるなんて!!」


 母は感涙していた。

 父は母の肩を抱き、娘と息子を抱きしめる。

 まるで一枚の絵画のような、そんな《家族》の光景だった。

 そこに、加われない……一人の少年、エルク。


「…………」


 エルクは、がくりと頭を下げた。

 エルクのスキル《念動力》は……世間一般敵に、《ハズレスキル》と呼ばれていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 ガラティン大陸の西方にある小さな国、デオ王国。

 デオ王国の貴族、キネーシス公爵家の長男エルク。彼の日常は地獄だった。

 キネーシス公爵家にある本邸から少し離れた場所にある小さな離れ。エルクはそこで寝起きをしていた。


「おはようございます。エルク様」

「…………おはよう」


 使用人は一人しかいない。

 三つ編みにメガネを掛けたメイド、十歳のエマだけだ。

 エマは、朝食のトレイをテーブルに並べ、にっこり笑う。


「エルク様。昨日はスキルを授かったんですよね? 昨日は帰ってきてすぐに寝ちゃったから聞きそびれましたけど、どんなスキルだったんですか?」

「……見たいか?」

「はい!」


 エルクは両手を突き出し、力を込める。


「ふ、ぬぐぎぎぎぎぎぎッ……!!」

「え、エルク様?……あれ」


 カタカタと、テーブルに置いてあったスプーンが動く。

 そして、一センチ、二センチと……エルクに向かって動き出した。


「ぶはぁっ!? はぁ、はぁ、はぁ……こ、これが俺のスキル、《念動力》だ。ははは……エマ、どう思う?」

「そ、その……」

「わかってる。ハズレスキルだよ。平民が授かる、小さな石や軽い物を引き寄せる程度の、ありふれたスキル……ハズレスキル」


 二回言った。

 エルクは絶望していた。


「笑うよな。ロシュオは剣聖、サリッサは魔聖……エピックスキルだ。間違いなく、最強のスキルだよ」

「え、エルク様……」

「な、エマ。エマのスキルは?」

「わ、わたしは《裁縫》のスキルをもらいました……まだレベル1ですけど」

「レベル1か。俺もだ……でも、念動力の最高レベルは10……レベルを限界まで上げても、机一つ引き寄せるくらいしかできない」


 エルクはさらに落ち込む。

 すると、エマが机をバンと叩く。


「エルク様!! そんな落ち込んだ姿を見せないでください!!」

「え、エマ……?」

「約束、したじゃないですか……ローズ様と、《どんなスキルをもらっても、精一杯がんばって生きる》って」

「…………」


 エルクの母、ローズはもういない。

 今は、側室だった第二婦人のベラが正妻である。ロシュオの母親でもあった。

 そして、第三婦人ミリア。サリッサの母親もいる。

 第一婦人にして正妻のローズは、もうこの世にいない。

 今は、ベラが現公爵であり父のワルドの正妻だ。

 親同士が決めた婚姻だったローズとワルドに恋愛感情はない。だが、ワルドは幼馴染であるベラとその妹ミリアのことは、愛していた。

 故に……エルクの事も、愛していない。今では「いないもの」のような扱いだった。

 スキルの儀でエルクのスキルが《ハズレスキル》とわかり、さらに冷遇するようになった。


「……はぁ」


 まだ十歳なのに、エルクはもう悟っていた。

 この家に、自分の居場所はない。


「……エマ」

「はい?」

「……いつも、ありがとう」

「いえ! ローズ様に頼まれましたから。エルク様を見守ってくれって!」

「……うん」


 エルクは、目の前にあるスプーンを引き寄せようと力を込めたが……すぐにやめた。

 こんなハズレスキル、意味なんて何もないから。

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