第11話 ひと夏を 占えよとか 花香降る
はまやは、時を超えた感覚を一文字の内に表すために、多次元構造を備えさせた単語を連ねて話し込み、ゆりかと情誼を通じた記憶を、御伽月を構えたまま蘇らせる。あの白雲は雨を含んでいるのか、それとも霧が時とともに雨として合わさり降って消えるのか、時と実存と意味合いを兼ね合わせ、一つの世界を広げゆく。
元は、未知の技術を成功させた際の短期感覚記憶を、様々な状況に再帰応用させるために工夫した多次元文字であり、ゆりかもその事は心得ている。
(言葉自体の意味は、あの頃と同じ。視座からの角度が変わると表象が変わる。一つの出来事が過去と未来が同じ時間として取り扱われている。次は、ゆりかがあの座敷で、こちらの太腿を叩いたまま手の平で押さえて笑っていた時の感覚。それに続くのは)
─ ひと夏を 占えよとか 花香降る
はまやは白閃している脳裏の片方で、花びらの間で、しなやかに輝く蜘蛛の糸が風に舞う様を予見し、柔葉の白面に光をあてるように御伽月を振るって宮風の斬撃をはじき返す。はまやは、宮風の金鵄の広鳴めいて大気を糾合する太刀風を聴聞していた瞬間を追憶しつつ、ゆりかとの間合いを測りつつ構えを正す。
(今光の奥に見えたのは、太陽を海とする白い船についての『記憶』。ゆりかと共にそれを操った感覚記憶)
はまやが、正中線をゆりかと重ねて、お互いの瞳の中で近寄りながら歩を進め始める。はまやが風を包み込むように円進すると、ゆりかも構えを向き変えて正中線を合わせ返す。
(互いに包み込み和合する剣相)
はまやとゆりかは、太刀向かいながらも心ひとつに、宿命の中で移ろうものを共に感じているかのように穏やかな面立ちで頬笑み合う。はまやは、嵐を待ち受けているかの様に凛々しい表情のまま、おぼろげな箇所がすべて艶めいている、ゆりかの笑顔に、明晰な感覚記憶を重ねて彩らせつつ、膝の溜めを解いて斬り掛かる。
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