はまやらは!
桜林路こぴ
第1話 トレジャーハンター 真南はまや
「ねえマミ」
「なに」
「魔法ってどうやるの」
「そんなのネコが自分で試しなよ」
「じゃあじゃあ、超能力ってどこから出て来るの」
「考えれば、そのうちわかるだろ」
「なら、神通力ってどこからもらうの」
「なんでそれを訊ねるの」
「本に一杯載ってるよ」
「そんなの作り話。児童文学は願い下げ」
「だけどマミは何でも知ってるし、何でもできるし、何でも持ってるもの。魔法があればマミに勝てるでしょ」
「そういうことを本人に訊ねたって」
「マミからだから聞きたいの」
「高度に発達した技術は、魔法そのものだね」
真南はまやは、美しい黒髪の輝きを周囲に振りまき、涼風を引き連れて、盛夏の日差しが照りつける階山の頂上に、悠然とした姿をあらわした。海辺の市街を見下ろすと、飛行船が数隻、優雅にその上空を回遊していた。
はまやが崖の内側に向き直って空を仰ぐと、日が中天にさしかかりつつある。
崖下の市街地から、おびただしい数の反射光が一点に集中し始めた。はまやは反射光の焦点となった空域を見やり、透明な鏃を四天にきらめかせて、光に眩む目を閉じたまま弓に矢をつがえる。弓が膨らみ、円錐形の弦に力が漲り、矢の向きが定められる。
はまやは次々に矢を放ち、光の中へと打ち込み続けた。
「今だ!」
三隻の飛行船から、光の焦点へと巨大な氷塊が放擲された。
はまやは真紅のエア・ボードを脇に抱え、白影の月を望んで街を見遙かす崖の突端から、海より吹き上がる強い逆風を捉えて飛び降りた。
「三十秒で終わらせる」
超高温の光の焦点の中から、蒸発したダイヤモンドの鏃が、炭酸ガスレーザーを上空に向けて収斂していた。炭酸ガスレーザーは、飛行船から放擲された重水素、窒素、酸素の氷塊を一瞬で気体に昇華させ、市街に高圧の寒気団を発生させた。
海からの逆風は、崖に向かって気団を這い昇り、はまやの滑空に適した上昇風を与え始めた。
「わあ、涼しい」
「夏祭りの日に客足を伸ばしてみせる、って市が言ってたの、このことか」
はまやが風筋を大気ニュートリノ・パッシブ方式で可視化させる風防ゴーグルの解像度を高めると、遠方で風が乱れる様が小さく映っている。
「あった!やっぱり発電所の上だったか」
はまやが発電所の超伝導炉の上空へ進路を定めた刹那、頭上に陰影が現れた。
はまやが見上げると、F-14トムキャットが動力を止めて、眼前で並んで背面滑空している。操縦席は空である。徐かに降下してくるトムキャットの腹面に、ヘルメットに猫の耳飾りをつけた飛行士が、繋留索を掴んだしっぽを風になびかせながら立っていた。
「環境派の飛行士に会うのって初めてだよ」
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