第11話 愛田さんのそういうところが腹立たしいんです!


俺は部屋に戻り、魔法少女たちが残したクッキーの缶を開けてみた。


甘い匂いがまだ残る缶の中には、封筒がいくつか入っていた。



それぞれ名前が書いてある。


まさか(ハート)の封筒を開けてみる。

出てきたのは紙一枚。

「ぱんつ引換券 まさかの履いているぱんつと引き替えます。あ、替えのぱんつも用意してね♪」


…おい。これをどーせいというんじゃ!”


引き換えたところで、その後どうしようもない。売れないし、使えな…いよ。きっと。うん。

まさかのあどけない顔を思い浮かべると、たぶん罪の意識で一杯になるだろう。

うん、俺はロリコンじゃない。たぶん。


もう一つの封筒は明手もむらのものだ。これも紙一枚だった。

「もむらのマッサージ券 好きなところをもむらが心を込めてマッサージしてあげます。私をマッサージしてもいいよ。」


こ…これも、中学生相手では犯罪だよ。許されるのは、疲れたお父さんに優しい娘が肩をもんであげるやつだけだ。二十五歳が十四歳を揉んだら、完全に事案発生だ。


…あのコミュ障、何考えてるんだ。それともツンモードのときに書いたのかな。その可能性が高そうだ。


次はナミさんだ。 これは予想どおり、紅茶のティーバッグだった。たぶん高いんだろうけど、俺にはわからない。 これは大家さんにプレゼントしよう。


赤身レアの封筒には、お札(ふだ)が入っていた。

「神棚に飾ってください。」と書いてあったが、うちには神棚なんてない。キッチンに画鋲で止めておくかな。


最後は、ちょっと分厚い封筒。セーラーブームだ。ちょっと嫌な予感がする。


開けてみると、金色の丸い珠が出てきた。


「幻のゴールドクリスタル。お金に困ったときにはこれ売りなさい。」


なんでも鑑定●では、こうやって掛け軸が出てきて、だいたい偽物なんだが、ヒーラーブームのだから本物だろう。 だが、これ、例の末端価格20億円のやつだよな。


…どーせーっちゅーんじゃ。


というわけで、とりあえず一部は取り出し、残りはもう一回缶に戻しておいた。きっと死蔵されるんだろう


しかし、ケガの功名というか、おかげで家が綺麗になった。風呂場もトイレも綺麗になった。これはこれでありがたいな。


まあそれはさておき、ロング明けで疲れていることだし、俺は寝ることにした。いまはもう朝の10時だ。そして4時からはまたシフトに入る。


とりあえず仮眠をしよう。

さっきまでシーツについていたヒーラーブームのよだれの跡が綺麗にとれていて、ちょっとだけ残念だったのは秘密だ(笑)。



今日のシフトにはマリアちゃんがいた。彼女が週に3-4回シフトに入ってくれることで、人繰りが何とかできている。おまけに、マリアちゃんがシフトの時は男子高校生・大学生が結構彼女目あてにやってくる。


ある日、彼女が2000円買った男の子に、「たくさん買ってくれてありがとう」と言ったら、その後ろに並んでいた男子高校生や大学生は皆一度列を離れ、たくさん、あるいは値段の張るお酒とかを買い込んできた.


高校生には酒やたばこは売らないよ、念のため言っておくと。それどころか、大学生でも20歳になっていなくて売れない、というオチまで着いた。


もちろんマリアちゃんは、高額購入者全員に、「たくさん買ってくれてありがとうございます。」とか「3000円越えだけど大丈夫ですか?」と言ってみたり、いろいいろサービスしていた。


店長からすれば、マリアちゃん様様だ。

お歳暮でも渡していいくらいだ。  これが本当の歳暮マリア、なんちゃって。


…自分でもひどいギャグだと思う。いや、ギャグですらないか。



店長が来て、。マリアちゃんがあがる。

店の中でそわそわしていた大学生っぽい男の子が、店を出て外をうろうろ始めた。これは、いわゆる出待ちだな。


マリアちゃんが喜んでいればいいけど、たぶん迷惑だろうな。

マリアちゃんの着替えが終わったと思えるころ、俺もバックヤードへ行く。マリアちゃんは支度が出来ていた。


店長に一声かけて、出かける。


「マリアちゃん、外で待ってる男の子がいたよ。どうする?」俺は彼女に言う。


もし彼女がその男と出かけるならば、快く送り出そうと思った。


彼女は嫌そうな顔をして言う。

「そんなに、要りません。愛田さん、頭おかしいんじゃないですか?」


俺は答える。

「いや、マリアちゃんのためを思って聞いたんだけど…」


「そんなの、ただの迷惑です。愛田さんに私のことを変に気遣う資格はありません!」


そこまで言われるようなことだろうか?

「いや、俺はマリアちゃんがどうしたいかなって…。」


「そんなのは私が決めることです。黙ってろこのうすらボケ!」


…また言われてしまった。


店の裏口を出て、表へ回る。待っていた大学生が、がっかりした顔をする。それでも彼は俺たちに近付いてくる。


すると、マリアちゃんは俺の腕にしがみついた。彼女の豊満な胸が俺の腕に当てられる。

なんという柔らかさだ。


「…あの…」大学生が声をかけてくるが、マリアちゃんは一顧だにせず、ずんずんと歩いていく。俺のほうが気にして振り向いてしまう。


マリアちゃんが小声で、「振り向かないでください。」と言う。


俺は反論しようとしたが、やめておいた。どうせ、また怒られるだけだ。今はマリアちゃんの胸の感触を味わっている最中だ。 彼女が怒って俺から離れたら勿体ない。


最初のうちは彼の足音が聞こえたが、途中で聞こえなくなった。きっとあきらめたんだろう。


アパートの前まで着いた。俺は帰ろうとしたが、マリアちゃんが小声で言った。


「このまま部屋まで来てください。見てるかもしれないんだから、愛田さんがこのまま帰ったら部屋に押しかけてきます。」


…もう居ないとは思うが、彼女の安全のためだ。俺は、彼女とくっついたままで、部屋に入る。



「今、お茶を淹れますから、愛田さんは座っていてください。うろうろしないでね。」


仕方なく俺はソファに座る。

ソファの左側。なんとなく定位置っぽいな。


「コーヒーと紅茶と日本茶、どれがいいですか?」マリアちゃんが聞いてきた。


「日本茶をください。」俺は言う。

紅茶だとナミさんの高級紅茶と比べてしまうし、コーヒーは職場で飲んだからだ。


ほどなく、マリアちゃんが、日本茶と柿の種をお盆に載せて運んできた。


俺は「いただきます。」と言ってお茶を飲む。

ちょっとぬるめだが、美味しい。


「どうですか?」マリアちゃんが聞いてくる。


「うん、ちょっとぬるいけど美味しいよ。」俺は思ったままを言った。


マリアちゃんはまた呆れた顔をした。

「いい日本茶は、ぬるめのお湯で淹れるんです。日本人なんだからそれくらい常識です!」


俺は申し訳ない気持ちになった。また怒らせてしまったらしい。俺の実家では、熱いお茶しか飲んだことがないから、お茶ってそういうものだと思っていたけど、どうやら違うらしい。


「そうだったのか。知らなかったよ。教えてくれてありがとう。」


「…どういたしまして。」マリアちゃんは呆れた顔をしている。

本当に俺の常識のなさを感じているのだろう。



「愛田さん、ペナルティの件ですけど。」

マリアちゃんが切り出した。


なんのことだろう?


「なんのペナルティだっけ?何か悪いことしたんだっけ?」俺は聞く。


「愛田さんのそういうところが腹立たしいんです!何も反省してないじゃないですか。同じこと繰り返して、そのうち刺されますよ。」


…刺されるって…そんなバカな。


「え、誰に?」俺は一応確認してみる。


マリアちゃんは怒った顔をして答える。

「世の中の女性の誰かに、と思っていましたが、もしかしたらそれは私なのかもしれません。 罪に問われなければ、愛田さんを40回くらい刺しているところです。日本の刑法に感謝してください。」


…なんと恐ろしい。


「ペナルティはシンプルです。これから、毎回送ってくれるときに、私を10回褒めてください。全部違うことでですよ。」


え?それがペナルティなの?よくわからないが。

「それがペナルティ?」俺は一応確かめる。


「そうです。愛田さんの根性を叩きなおすためにも必要なプロセスです。」」



よくわからないが、これから俺はマリアちゃんを送りながら褒める、いや褒めながら部屋まで送り届けることになるらしい。 ま、いいか・


ーーー

ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。


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ちょっとなりふりかまわず書いてみました。


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