最終話 怪獣がいなくなった日(1)
ススムたちは怪獣対策大型地下避難所にいた。
「マヤコ、避難所にいないみたいだね」
ススムは非常食の乾パンを食べながら言った。
「別の避難所にいるでしょ」
ユメはいつものようにカメラを磨きながら言った。
「マヤコさん、ヨウさんと一緒なんじゃ……」
ススムから乾パンを貰い食べながらシオリは言った。
「はは。それなら安心だね」
「なんたってヨウの姉貴の側が」
「一番安全だもんね」
三人はマヤコと会ったときヨウと会ったときリクナと会ったとき、まず何を話そうかと思い描いていた。
怪獣はいよいよ姿を現した。
五十メートル、いやそれ以上あるかもしれません! テレビやネットでアナウンサーや緊急速報がずっと鳴っている。
マヤコたちが生きてきて初めて巡ってきた脅威。
マヤコ自身がテレビの世界に入り込んでしまったかのような現実味のない空間に戸惑った。
距離はかなりあるというのに地響きが鳴り続ける。
隊員たちの緊張が伝わってくる。
今はこの街にいる怪獣だが、ここで食い止めなければ隣へ隣へと移って行ってしまう。
そんな被害を出すわけにはいかない。
「こんなのヨウとお姉ちゃんでどうやって倒すのよ!」
そもそも人でどうにかできるものなのか。
「ヨウとマキコはそんなこと思ってないよ」
リクナとキヤコが涙を流しているマヤコに言った。
「あの子たちはいつだって負けると思わない」
「どうしてそんなこと言えるの! 本当はヨウもお姉ちゃんも心の中では怖いかもしれないじゃない!」
「ああ。怖いだろう。でも、前に必ず進む。進んでくれるから私たちも戦える」
「マヤコちゃん、あの二人だけじゃないよ。私たちがいる」
リクナは自分の胸を叩いた。
「リクナも無茶を言うよなー」
「まあ、無茶を言うのが仕事なところもあるからね」
ヨウ、マキコ、専用の待機部屋で二人は着替えていた。
「この服、本当に大丈夫なのかね」
「リクナが言うんじゃ大丈夫だよ。あの子の言うことで間違ったことはないからね」
模様が複雑に入ったピッタリとしたスーツは身体と一体化して裸のような気分になってくる。
「この作戦で初めて使うことだから失敗しても戦い続けなきゃいけない」
「そもそも勝つ前提だからね。いつも」
「そうやって私たちはやってきた。これからもそうだろうね」
「あー落ち着かん」
「そう?」
「さっさと初めてほしいものだよ」
「まあ、作戦側にも準備はあるからね。でも……」
「怪獣は待ってはくれない」
キヤコが二人の準備を確認すると部屋に入って来て重く告げた。
「作戦開始に移行する」
二人は敬礼し「了解」というとキヤコの隣を通り過ぎて行った。
キヤコの目に涙が浮かんでいたのはキヤコ本人にしかわからない。
キヤコは二人の部屋に入ると二つの封筒を見つけた。
それは二人にもしものことがあったときのために書かれたいわゆる遺書だった。
キヤコはそれを懐にしまうって自らの頬を叩き、部屋をあとにした。
隊員たちは道を作るように並んでヨウとマキコに敬礼をしていた。
二人は真っ直ぐとその道を歩んでいく。
隊員たちが自分たちにかけてくれる思いを無駄にするわけにはいかない。
最後の道はえらく小さかった。
最後の敬礼はマヤコのものだった。
二人はそれでも真っ直ぐと進んだ。
怪獣がいる半径一キロ以内に入ってきた。
この距離はとっくに避難区域の枠に入っている。
怪獣の咆哮が街を地面を揺らす。
「やっぱ今までで一番デカイな……」
「これが今回のラスボスだからねー」
ヨウとマキコはいつものように軽口を叩いているが手が震えていた。
お互いにそれがわかり手を握りあった。
二人は深呼吸をし、ゆっくりと手を離した。
二人の身体が光だし、足の先から巨大なアーマーのようなものに包まれていく身体全身を覆いつくした。
その大きさは五十メートルの怪獣の大きさにも負けないものだった。
二体の巨大なロボットのような姿だった。
一体は燃えるような赤。
一体は全てを飲み込むような青。
隊員たちは息を飲んだ。
存在を知らされていたとは誰もが目の当たりにしたのは初めてだった。
ごく一部を除いては。
「正直、この能力だけは彼女たちに備えたくはなかった……。しかし、身体が受け入れてしまった」
「マキコ……ヨウ……」
二体の巨人と化したヨウとマキコは怪獣の元へ歩んでいきそして走りだした。
『ねぇ! これ、みんな避難してるから大丈夫なんだよね!』
青い巨人からマキコの声がした。
『百%大丈夫ってリクナが言ってた! だから思いっきり戦おうぜ!』
赤い巨人からはヨウの声がした。
怪獣は自分以外の巨大生物に気が付き近づいてきた。
『やい、怪獣! アタシたちがぶっ倒して元の生活に戻ってやるからな!』
怪獣は言葉が通じているのかヨウに向けて走り出し頭に付いてる鋭い角をヨウの腹目掛けて突き立てた。
『ぐっ!』
『ヨウ! 何やってるんだ!』
怪獣を掴み投げ飛ばしヨウは体勢を立て直した。
『アイツやっぱめちゃくちゃ硬い』
『なれない巨大ヒーローになってるんだ。もっと慎重にならないと』
『慣れないことやってるからこそガムシャラにやるんだろうが!』
巨大化した二人の会話に隊員たちの緊張はほぐれてきた。
「あはは! もしかしたら世界の命運をかけてるかもしれないってのによくやるよあの二人!」
「ヨウ! お姉ちゃん!」
ヨウは怪獣をとにかく殴る。
殴られた怪獣からは緑色の血が溢れ出す。
怪獣も前足を利用してヨウを蹴り飛ばし、角での攻撃を連続で行った。
ヨウの身体にヒビが入ってくる。
『ヨウ、休め! 次は私がやる!』
『すまない!』
怪獣の動きに変化があった。
自分の流した血が怪獣の元に集まっていく、それが身体を覆うと一回り大きく成長し、四足歩行だった怪獣は二足歩行へと進化していた。
『はは……こんなの聞いてないな』
見上げる形となってしまった怪獣の顔はどこか人の顔に似ていた。
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