第5話 ススムべき道(1)
ススムの中ではそのキャラクター達がとても魅力的でカッコよく感じていたのだ。
『自分もあんな風になりたい。カッコイイ人になりたい』
いつしかそう思うようになった。
男子より髪を短くし、わざと男の子に見える格好を好んできる。
自分でも似合っていると思っていたし、事実周りからもカッコイイと言われたり、知らない人にも男の子と間違えられるのが多かった。
ススムはそれがたまらなく嬉しかった。
幼馴染のマヤコに対して抱いている感情。それはコンプレックスだ。
マヤコもススムと同じように一見、男の子に見える服装とススムほどでは無いがショートで髪が短い。
小学校低学年の頃のマヤコはスカートを穿いていたり、明るい色を着ていたりと今より女の子らしく可愛かった。
今のマヤコはボーイッシュな女の子として可愛い。
ススムはそこが自分とマヤコの違いだと思い、少し安心している。
自分はカッコイイ、マヤコは可愛い。
この差は子どもにとってはとても大きいものだ。
大人から見たらどちらも可愛らしいボーイッシュ少女であることにススムは考えもしなかった。
ススムはユメから貰ったヨウの写真を見ながらため息をついた。
以前、シオリがヨウに憧れるあまり、間違った方向に行ってしまった。
ススムはそうならないように憧れを持とうと自分の中で誓った。
ヨウも髪が短めで大人だから真っ赤に染めたウルフヘアが似合っていた。
左耳に付いてる星型のピアスも素敵だ。
ススムはヨウに片思いをしていた。
ススムが親戚の家に言ったときに事件は起きた。
「ススムちゃんも、もう来年が中学生かい? 早いねー」
「もう、この子ったら男の子みたいな格好ばかりして」
「いやーススムちゃんの制服姿は可愛いよ絶対」
「そうそう、ススムちゃん可愛いからねー」
(可愛い……?)
ススムは親戚たちが悪気なく言っているのはもちろんわかっている。
でも、ススムの心のガラスにヒビが入った。
親戚たちはススムが制服でスカートを穿くのを楽しみにしている。
ススムは親戚の家に帰るまで、言葉を発せなかった。
(ボクはカッコイイって言われたいのに……)
ススムは自分がカッコイイと言われたいということを誰にも打ち明けていなかった。
漠然と笑われるんじゃないかと思った。
学校ではカッコイイと言われているんだから良いじゃないかと思う反面、親戚にも認めてもらいたかった。
ススムは親戚の家から帰って来てから大好きなアニメを見直していた。
本編では言われていないが男装の麗人のキャラクター代表のように扱われている。
そのキャラクターの声を演じているのは女性だ。
ススムはこの男装の麗人のキャラを目指している。
「まだまだ、目標は遠い……」
そうススムが悩んでいるときに出会ったのがヨウだった。
ユメから貰ったヨウの写真を小さくコピーし生徒手帳の中に入れた。
自分に自信がなくなったときにいつでも見られるようにするためだ。
ススムは胸に大きな星がプリントされたTシャツを来て、赤いパーカーを羽織った。
これがススムの普段の服装だ。
(鏡の前でススムは日課のように呟いた)
「今日もボクはカッコイイ」
ススムは空手教室に通ってる。
いつも入るたびに年下や年上の女の子たちが集まってくる。
「ススムくーん会いたかったよー」
このノリは少し迷惑だったが、ススムの中では成功だった。
ススムは空手教室の中でも有段者だ。
それもススムの中ではカッコイイ人の第一歩の道だと思っている。
ススムが学校に来るタイミングでマヤコも到着する。
マヤコの服装を見るたびにススムは心の中でため息をついた。
(昔みたいにスカート穿いて女の子らしくしてくれよ)
誰がどんな格好しても良いけどマヤコも少年と間違えられるような格好をしているのが内心面白くなかった。
影でススム派かマヤコ派かというのが出来ているのだ。
ススムは王子様タイプ。マヤコはヤンチャタイプということらしい。
ススムはそのことについてはなんとも思っていないがマヤコはかなり迷惑に感じているらしかった。
ススムが教室に入ろうとすると他クラスの女の子に必ず声をかけられる。
まるで、芸能人の出待ちや楽屋入りのようだ。
教室に入ってやっと席につく、マヤコはとっくに席に座って一時間目の準備をしていた。
授業もちゃんと聞く、ノートも取る、宿題もちゃんとする。
しかし、マヤコは勉強が苦手だと言う。
ススムはそれが不思議でならなかった。
担任もマヤコに落ち度が無いのはわかっているから怒ることもできない。
マヤコの背中をジッと見る。
半袖短パンで少し日焼け気味の肌は確かにヤンチャな男の子に見える。
(いっそのこと、マヤコとユニットを組むのも悪くないな)
王子様タイプのススムとヤンチャ少年タイプのマヤコのコンビで意外と人気が出るかもしれない。
幼馴染というのもポイントが高い。
ススムがそんなことを後ろの席で企んでいることなど、マヤコは考えもしなかった。
放課後になり、マヤコが帰ろうとしたとき、ススムが声をかけてきた。
「マヤコ! 今日はボクと一緒に帰ろう!」
「いや、いつも一緒に帰ってるようなもんじゃん」
「今日は二人っきりで返ろう!」
「え、いいけど」
「それじゃ、ユメ! シオリは二人で帰ってくれたまえ!」
そう言って、マヤコの肩に腕を回し、ススムたちはそのまま学校を出た。
「あの、ススム。そろそろ肩の腕どかしてくれないかな。結構苦しいんだ」
「おっとすまない!」
「なんか、ススム、キャラおかしいよ? 前のシオリみたいというか……」
「い、いやそういうわけじゃなくて……」
「また、ヨウ絡み?」
「違くて、そのマヤコに用というかお願いがあるんだ」
「ヨウに会わせろ以外で?」
「そうなんだ。マヤコ、ボクとコンビをくれないか?」
「……は?」
「だからコンビ」
「何? お笑い芸人になりたいの?」
「違う!」
「アイドルユニット?」
「ちが……あ、それに近いかも」
「私はパス」
「ダメな理由言って!」
「一、興味ない。二、目立つのキライ。三、バカにされそう」
マヤコは指を三本立てて、ススムの顔の前に突き出した。
「以上の理由でヤダ」
「違うの! アイドルじゃなくて……ほら、ボクたち似てるじゃない?」
「どこが?」
「見た目とか! 服装とか!」
「そうかな? ススムの方がオシャレじゃない? 私、毎日半袖短パンだし」
「そこ! そこだよ! 王子様タイプのボクとヤンチャ少年タイプのマヤコが一緒に歩けば絶対、カッコイイって!」
「それ、私にはメリットないじゃん」
「人にカッコイイって言われるんだよ! もしかしたら薄い本とか作られちゃうかも……!」
「ススムが何考えてるかわかんないけど一緒にいれば良いってことだよね」
「そ、そう! そうそうそうそううそうそうそうそ!」
「そうそう、うるさい。それだけなら良いよ。ダンスとか漫才やるわけじゃなさそうだし」
「ありがとう、マヤコ! さすがボクの幼馴染、いや、相棒!」
ススムはすっかりその気になっていた。
「じゃ、明日、ボクの家の前で待ってて! 一緒に登校しよう!」
「て、ことがあったわけよ」
自分の椅子に座って、ヨウに愚痴をもらした。
「コンビねぇー。まあ、アタシはマヤちゃんとススムくんのペア、悪くないと思うけど」
「そこが意味わかんない。カッコイイって言われたいならススムなんていつも言われてるじゃん」
「いやいや、人はもっと上を目指したいものなんだよ」
「だからって私を巻き込むなっての」
マヤコは不満そうに缶コーラを飲んだ。
「そういえばリクナさんとヨウも仲良いじゃん。コンビになるってこと?」
「うーん。まあ、今はコンビだね」
「友達とは違うの?」
「まあ、同じもんか? なんか一緒にいつでもいたりすれば、しばらく離れていても平気で、たまにバッタリ出くわす。そんな関係」
「よくわかんない」
「大人にはそういう関係もあるわけ」
一方、リクナは。
「ヨウとコンビだって? 組んだ覚えないよ」
「違うんですか?」
「今は休戦状態で一緒にいるだけ」
と言っているがヨウといるリクナはとても楽しそうなので素直じゃないのだろう。
「うーん。まあ、一緒にいるだけだし、いっか」
マヤコは深く考えずに眠りに入った。
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