咎の炎は燃ゆる

雪幡蒼

第1話 この世に忌み嫌われる者

 ある次元に存在しているラフィディアと呼ばれる世界があった。


 ラフィディアの東の位置にあるとある町。

大都市ではないものの城壁に囲まれたその町は産業で発展を遂げ、経済活動も活発で住民も日々の生活ができる程度には安定した供給があった。


その町に魔力を持つ少年がいた。

「この骨にはわずかに肉が残っている……。このパンのかけらも食べれられる」

その少年は町の裏道で廃棄物をあさっていた。

 廃棄物の中からまだ食べられる物を探し出し、日々の食糧を調達しているのだ。

 わずかながらでも食べられるものを見つけると、所持している布袋に入れる。

 これが今のルギナの日課だった。

 少年は名前をルギナといい、年齢は七つほどだ。

 貧しい育ちの為に新しい服を買うお金もなく、入浴することや水浴びすらできぬ不衛生な育ちの為に特徴的な赤い髪はぼさぼさになり伸びっぱなしで美しさもなく、衣服ももはや穴だらけでほぼボロ布同然の服を身にまとい、身だしなみはお世辞にも綺麗とはいえない外見だった。


 この町にはさほど貧富の差はないのだがある力が使える者は貧しい生活を強いられているのが現状だった。

 綺麗な衣服を身にまとった子供達が裏道を通ると、廃棄物あさりをしているルギナが目に入った。

「うわ、なんだあいつ、ゴミあさってるぜ」

「ばっちい!汚ねえ」

 ルギナはその声に反応して廃棄物をあさる手を止め、子供達の顔を見つめた。

「げっ、こっち見たぜ」

「近寄るんじゃねえよ。汚ねえなあ、とっととどっか行け」

 子供達はここは自分達の遊び場なのだから汚いものは出ていけとばかりにルギナを批判した。

 ここから立ち去れ、と言われたルギナはキッと目つきを変えて子供達を睨みつけた。

「うるさい……邪魔をするな」

ルギナは手を抱え、小さな声で詠唱する。

するとルギナの手から小さな火の玉が燃え上がった。

その火の玉はまるでルギナ自身の怒りを表すかのようにめらめらと激しく燃えさかり、子供の顔ほどの大きさはある炎の玉を作り出した。

「この炎の餌食になりたいか?」

 そう言いながらルギナはまだ子供ながら精いっぱいの目つきで睨みつけ、子供達に炎の玉を見せつけた。


 ルギナの唯一の特技である魔法だ。

 これだけがルギナにとっては自分を攻撃するものへ対抗できる手段なのだ。

それを子供に見せて威嚇して脅しているつもりなのである。

「げーっ! 魔法だ! 逃げろー!」

 ルギナの魔法の力を見ると、子供達は一目散に逃げ出した。

子供達は表通りに走っていき、親元へしがみつくように泣きついた。

 すると大人達は決まってこう言う。

「魔法を使える子に近づいちゃいけません」


 古くから魔法が存在していた世界ラフィディア。

 かつては魔法こそが世界の中枢となるエネルギーであり、栄えるための道具であり、世界を動かす基盤だったはずだが度重なる戦いにより魔法に対する価値観が時代により変わっていった。

 魔法の力を持つ者と持たない者による力の差、そしてこの世界では魔法によりその力を正しく使わない者が時には暴走して人の命を奪い、悪用した者が魔法を犯罪に役立つ力として使用されるようになり各地で狂暴な事件や争いが多発するようになった。

 火の魔法による放火や水の魔法により津波を起こしたり、時には大量殺人にまで魔法が使われるようになった。

 ある日、魔法を使う権力者が支配され、魔法を脅威をとみなしたラフィディア政府は魔法を使うことを禁じることにした。

 魔法は世界で人を殺め、力で支配しようとする恐ろしい術として禁忌とされ、これからは魔法を使わずなるべく人の力で解決するようにと指令が出たのだ。

 魔法を捨て、人の力で解決するようにというのがこの世界のルールとなった。


五百年の月日が経過し、次第にこの世界では魔法が失われつつあった。

 魔法を使うことを禁じたことにより、子孫繁栄の度に次第に魔法の血が薄れていき、親から子へと生まれる際に魔法の力が遺伝しない子が生まれ、そのまま失われていく。

 そうやって魔法の力を引き継がない子世代が増えていくことで次第にこの世界では魔法の力を持たないことが当たり前となり、逆に魔力を持つ者は危険な存在と忌み嫌われ、人々から汚らわしいと蔑んだ差別的な扱いをされる時代になった。

 この世界では魔法を封じているうちに魔法そのものが使える人間が減っていき、もはや今となっては逆に魔法の遺伝を持つ者こそが希少となり、魔法を使える者は禁忌の子として煙たがられる存在になっていた。

 そう、ここにいる少年もまたそんな時代に皮肉にも魔法を持って生まれてしまった子なのである。

 ルギナは生まれつき魔法が使えた。

 魔法の力を自由にコントロールするには多少の努力も必要だが、ルギナは精神力が強く、そのくらいたやすいものだった。

 生れつき持っていた魔法の力をコントロールする苦難のものとせず、魔法は自然と使えるようになっていった。

 皮肉にもこの世では魔法は歓迎されず、忌み嫌われるものであり、魔法が使えるルギナは世間からは冷たい目で見られるだけで何の役にも立たなかった。

 一度魔法を使ってどうにか世間に溶け込めないか考えたこともあるが子供の頭ではそこまで考えることもできず、ただ魔法を持て余すばかりだ。

 このラフィディアでは魔法を使って罪を犯したりすればそれは速攻死罪になるほどの重い罪である。

 魔法を使えたとしても決してそれを実用的に使ってはならない。

 なので魔法は先ほどのように威嚇や護衛に使う程度だ。



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