秋風吹くカフェの店員

@12の部屋

第1話 ようこそ、喫茶「秋風」へ

「ようこそ、のんびりして行きや〜」


今日も始まるスローリーライフだが、ここ喫茶「秋風」には個性豊かな客が来る。


今日も自慢の珈琲を飲みに来ているのは、19歳の女子大学生だ。


「また、相談しても良いですか?マスター」


「ええよ、今度はどないしたん?えらい、元気なさそうやけど辛いことあったんか?」


「そうなんですよ!今まで付き合っていた彼が、浮気していたんですよ!酷いと思いません?」


彼女はマグカップに淹れているカフェ・オ・レを少し啜り、ため息を1つ吐いた。


「可哀想に。彼氏さんとは、喧嘩したんか?」


「うん、したよ。でも、ごめんも言えん人やとは思わんかったわ」


「彼氏さんの言い分聞いた上で、怒ったんか?」


 優しく聞く代わりに相手に非がないのかを聞いて、思ったことをズバリというのが喫茶「秋風」のマスターである齢21のやり方だ。


 本来なら、「この喫茶店のマスター、サイテイ! ☆1」という評価がつくのだろう。

 しかし、寄り添う形で相談を受けるというこのご時世にない形なので、オープンしてからすぐに☆5評価の常連喫茶になった。


 補足だが、この喫茶に来る客の年代層は10代から30前半の女性客が多い。


「そうや、怒ったよ。アタシに魅力は無いんか?って」


「そしたら?ーーはい、サービスのミルクティーとミニチョコレート。ああ、お金はええよ」


「あ、ありがとうございます。マスターって、なんでこんなに優しいのに彼女居らんの?不思議やわ〜」


「なんでなんやろな〜、マスターも不思議やわ。あはは…」


「それでな、彼なんて言ったと思う?」


「なんて?」


「アタシに飽きたってさ!」


「あらま…」


 その子は突然、一筋の涙を流し始めた。


 分かる、別れが辛いのはよく分かる。


「グスッ…、ウチ。振られたんやな、高3から付き合っていた彼に、飽きられていたんやな」


カウンターに1つだけあるティッシュ箱を手に取って、涙と鼻をかむ彼女が哀れに見えて来たので、「あー…無責任かもしれんけど、寂しさが抜けるまでここでバイトでもせんか?今ちょうど、人手が足らんくて困っていたんやわ。時給も時間も自由にしたるから、3ヶ月だけ来ないか?」と切り出した。


「え?」


「やっぱり、なんでもない。ーーけれど大丈夫、安心し。喫茶「秋風」はお客さんの味方や!嫌な事とか悲しい事、反対に嬉しい事や楽しいことがあったらいつでも来てええよ。ーーじゃあ、お会計は…」


 伝票を出して会計を済ませた彼女の顔色が、来た時よりも明るくなっていた。


 うん、笑顔が1番!


「マスター、あのね」


「ん?」


「ーーその、ありがと!元気出たわ、おおきに」


「ハハハ!ーーまたのご利用、お待ちしています♪」


 オープンの看板を裏返して、クローズにすると喫茶の電気照明が消えた。


 明日は、どんなお客が来るのか。


 楽しみである。

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