光輝

〈光輝〉

 突然の指名とともにみんながこちらを見てきたので、光輝はとても前を見ていられなかった。


「光輝、君がずっとしているその王子様の仮装じゃが、申し訳ないが、子供たちの中で人一倍、君は浮いている」


 なんとなく言っている意味は分かった。


「周りの中で浮いている君なら、空にも浮くことができるはずじゃ」

「おばさん、まじで何言ってんだ」

「浮いてない警察は黙っとれ。おい光輝、さっき渡したそのステッキを、思いっきり空に掲げなさい」


 光輝は色々と理解の追いつかないまま、とりあえず言われた通りにステッキを持つ右手を上げた。その瞬間彼の体は、一気に宙へと舞い上がった。


「ちょ、お、おばさん! 高い、高いって!」

「行け少年! お菓子、そしてお前の仲間たちの為だ!」

「仲間……」


 光輝は遥か上空から、みんなを見下ろした。


「光輝ならできる! 頑張れ光輝!」

「光輝君! 頑張って!」

「私のお菓子、取り戻して!」


 バカにしてきた人、優しくしてくれた人、心配してくれた人、まだまだ知らない人、怪しすぎる人、色んな人が地上にいる。ふと右を向くと、慌てて逃げようとするジャックの姿が見えた。


(簡単な奴だな……)


 光輝は自分で自分を笑うと、前の家の屋根を強く踏みしめ、そして力いっぱい蹴った。

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