警察

〈警察〉

 都会では今頃大騒ぎだ。それに比べればこの小さな区での小さなイベントの見回りなど軽いものなのだが、しかし面倒で仕方がない。というのも、この区は変な奴ばっかりなのだ。変な仮装をする割には語彙力の高い子供たちをはじめ、関わってもいい事がない奴らだらけ。

 どうせ毎年事故とかは起こらないし、子供達を避けながらあちこちウロウロすればいいだろう、こんなもの……とか言ってる側から、ほらほら誰かが何かやってるよ。


「ちょーそこのおばさーん。何してんすか、ここの道端、許可取ってるんすか?」


 まだ灯りのつかない街灯の下で、見知らぬ老婆が一人で何やら屋台のようなものを組み立てていた。全身は厚手の黒っぽい服に覆われ、首や耳周りでは派手なアクセサリーらが必要以上に怪しいオーラを放っている。


「今晩は、何かが起きるぞ。今年は今までと違う。きっと、きっと何かが起きるんじゃウワァァァァァ」


 はいもうヤバいヤバい、怪しすぎるって。


「……いやまぁそれはそれとして、おばさんはここで何をしてんの、って」

「今日はいつも以上に、街を彷徨う悪霊たちの姿が見える。奴らから子供達を守るために、今日はここでお菓子を売るのじゃ」

 

 普通に商売じゃねーか。


「きっとたくさんの子供たちがやって来ることよ」


 こんなとこで勝手にお菓子売られてもなぁ。このくらいのスペースなら影響は少ないだろうがしかし……


 プルルル…… プルルル……


 不意に、警察用の電話が音を立てた。


「もしもし」

「もっ、もしもし! 警察ですか⁉︎」

「は、はい、そうですが……」

「変なおっさんが家の前にずっといるんです! お菓子くれお菓子くれうるさくて……」


 叫びすぎてバキバキな機械音が混じっているが、若い女性からの通報であることは分かった。ってかなんちゅう通報だ。知らんおっさんが家の前でお菓子せがんでいるなんて。


「すぐ向かいます、お名前と住所は?」

「内田サキです! 家は、中央区二丁目……」


 少し距離があるが、交番に戻るよりは走った方が早い。


「じゃあおばさん、そゆことで俺は行くけど、」

「もう売る準備は整った」

「とにかく変なことしないでくれよ頼むから!」


 もぉー! めんどくせぇなぁこんな夜に!

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