光輝

〈光輝〉

 夜の公民館に集まった二十人ほどの子供たちは、それぞれの仮装をしながら騒がしくはしゃいでいた。小学3年生の光輝はその中では少し年上の方である。


「二郎君、それは何の仮装なの? 頭に白いのかぶって」


 六歳の二郎は、同い年の女子からの質問に笑顔で答えた。


「クミちゃんこれはね、親知らずだよ」

「あー、口の中で一番奥に位置する歯で、第三大臼歯もしくは智歯とも呼ばれるやつよね。それは大人もたくさんお菓子くれそうだね!」

「だろ? 幾年もの経験を貯蓄しながら各々の仕事に従事してきたこの区の成人たちは、子供のセンスとかに異常なほどの慈悲心を示すんだよ」

「そうだよね!」

 

 皆が会話を弾ませる中、光輝は一人顔を暗くしていた。それを見た二郎は不敵な笑みを浮かべながら彼の元へ近寄って行った。


「ねぇ光輝君、それは何の仮装?」


 光輝がためらいながら小さな声で、王子様、と答えると、食い気味に二郎は大きく声をあげた。


「何だよそれおめぇセンスねぇなあ、小学生みたいな仮装してんじゃねーよー」


 小学生だよ。


 今年この地区に引っ越してきた光輝は何も声には出せず、徐々に大きくなっていく雑言の塊の中でただ視線を下げていた。気持ちを弾ませる光輝の前で、母が何かに満ちているような姿で縫ってくれたこの服。二人同時にこの色がいい、と言って選んだこの生地のまっすぐな青色が、水で揺らいで薄くなっていく気がした。

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