川越城の増改築
「大殿様、この場はどの様な意味があるのでしょうか?」
「う、うむ…、宗泰殿より送られて来た城の図面を元に作ったが実はワシもよく分からんのだ…、9月の末頃、この川越城に説明をしに来るとは言っていたが…」
そう言い家臣からの問いに困った顔をしながら送られて来た図面に道真は視線を落とす。
図面には第二次川越城増改築計画書と書かれており、その通りに堀や土塀、石垣等を作ったが、道真の今までの経験を元にしても理解が出来ない部分が幾つもある。
当主である太田資常が元気であれば川越城を任せ自分が江戸城へ聞きに行けるのだが合戦で負った傷の影響か床に臥せっている事が多く川越を離れられない為、日々出来上がっていく設備を見ては悶々とした日々を送っている。
そんな中、明後日に宗泰殿が来るとの先触れが来たのでこの際、とことん説明してもらおうと道真は心に決めていた。
2日後、川越城に到着した俺を前に道真の顔が驚きの表情に変わった…。
「む、宗泰殿…、こ、これは…」
「爺様、いえ道真殿、これらは川越城を守るための物にございます。 後日追加が届き、使い方を教える者が来ますので良しなに」
道真が目を剥いている理由は俺の後ろに列をなしている荷駄の数だ。
川越で現地調達出来る物は持って来ていないが、それでも山のように荷が積まれた荷駄が40程ある。
川越城は武蔵の要衝だからね。
これで道真が裏切って敵に回ったらシャレになないけど、今後両上杉家と古河公方が手を組んで攻めて来る可能性があるし。
一抹の不安はあるけど今は道真を信じるしかないんだよね。
川越城に持ってきた荷を搬入した後で、道真の案内で増改築された川越城を見て回る。
元々あった主郭を本丸として、以前増築した場所を二ノ丸とする。
元々川越城は空堀に加え入間川の水を引いた水堀があり堅城の分類に入っていたが以前増改築し更に堅固になっているが第二次増改築計画では更に城を拡張し防衛だけでなく攻撃的な城になっている。
第二次増改築計画では二ノ丸の堀を深くしただけでなく石垣の上に土塀を作った。
これで水堀を泳いで渡って石垣をよじ登っても土塀がありそれ以上登れずに立ち往生する。
しかも約20メートル間隔で鏃のような三角形の突き出した場所を設けているので、石垣を上っている敵に矢を射かける事もができる。
そして今回作られた三ノ丸は深い水堀に囲まれてはいるものの部分部分水堀の幅が広かったり狭かったりしている。
当然攻める側からしたら水堀の狭い部分を攻略しようとするはず。
門に関しても大手門と裏手門を設けているが水堀を幅を広して、門へ続く道は広いものの長く、道の左右の水堀に突き出すように作られ櫓から門へ向かう敵を攻撃できるようになっている。
本当は二ノ丸内を武家屋敷や足軽長屋の区画にしたかったんだけど流石に広さが足りなかった…。
そして三ノ丸は馬場や練兵場などの為、武家屋敷と足軽長屋は城下に作る事になった。
「流石、道真殿、ほぼ図面通りに出来上がっていて、まさに難攻不落」
「う、うむ、確かに水堀がある故この城を攻めるとなれば難儀はするだろうが…」
「守る側としても攻め手に欠けると?」
「弓や投石だけでは大した被害を与えられぬ、敵に打撃を与え追い返せるかどうか…」
確かに道真の言う通り、弓や投石だけでは大した被害を与えられず、反対に飛んで来る矢と石への対策をされれば門を破られかねない。
「なので今回、防衛用の武器を持ってきました。 輸送するとなれば嵩張るので現地調達する物もありますが、今回持って来た物と追加で運び込む予定の物があれば2万や3万の大軍であろうと守り切れます」
「宗泰殿の事だ、きっと役に立つのであろうがどうしてそこまでして川越城を強化するのだ?」
「それは川越城が武蔵の要衝だからです」
「ではワシが…、いや太田家が豊嶋家と袂を分かち敵になったら如何するのだ。 この川越城が豊嶋家にとって厄介な存在になるぞ?」
「道真殿は裏切ったりしないと信じております。 なにより道真殿が敵になれば照が泣きます。 道真殿も曾孫をその手で抱き上げたいでしょうから」
「はぁ~、答えになっておらんな。 全く、照の子を抱き上げる事が出来なくなるとは痛い所を…」
道真は俺の言葉に苦笑いを浮かべつつ運ばれて来た荷の方へ足を向けた。
道灌は既に両上杉家とは袂を分かち俺の客将になっているし、道真も既に両上杉家に見切りを付けている。
岩槻城の太田資忠の心は分らんけど恐らく両上杉家から送り込まれた刺客から逃れさせる為、道灌を江戸に送り込んだぐらいだし、多分大丈夫だと思う。
それに今回運び込んでいない試作兵器があれば川越城を落とせるし。
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