武蔵守護代

全体的に見ると関東管領方は川越城を攻める構えを見せた敵を追い払い、大将首を多く挙げたものの、長尾景春方は根古屋城攻めに来た上杉朝昌を撃破し大打撃を与えると共に沢山城を手に入れ結果的には長尾景春方が勝利したといった感じだ。

沢山城には元小机城城主矢野兵庫が入り周辺の国人衆を味方に付けて城の修理をし周辺を所領としている。

俺は密かに景春を通して1000貫文を送っておいた。

小机城は既に三浦家の物となっており同盟を結んだとはいえ俺には返還交渉など出来ないしするつもりもないので矢野兵庫の新たな所領となった沢山城の修繕費用と小机城を諦めてくれと言うメッセージだ。

景春にはその旨を伝えてあるので後日、商人に扮した家臣が1000貫文のお礼に来て遠回しに小机城は諦めるという話をして行った。



そして川越城城主太田資常と後見の道真、豊嶋家当主である俺に関東管領上杉顕定より川越であった合戦の勝利に対する感状が届いたがどちらかと言うと勝っているので感状を出したというパフォーマンス的な感じで総合的に負けているという事を隠す為に強引に戦果を誇張表現し体裁を整えたような感じとも思える。

まあ太田資常と道真が連名で出した川越城を増築する金銭支援は必要と判断され5000貫文得られたので感状なんかよりよっぽどありがたみがあったんだが、それと同時に俺としては気に入らない事が書かれた書状も追加で来た。


内容は現在劣勢に立たされている状況の説明、そして兵を率いて各地を転戦出来る武将が少ない事、それに伴い上杉顕定の客将扱いとし太田道灌を還俗させる事に関し理解を求める内容だ。

太田家の家督は太田資常のままとし、手柄次第では道灌には別途家を興す事を認めると書かれている。

豊嶋家、太田家に対し断りもなく出家した道灌を還俗させるという一方的な内容に怒りを覚えるも、道灌を還俗させる事を条件に俺を武蔵守護代にするとの事だ。

しかもご丁寧に既に俺を武蔵守護代に任命する手はずは整っており、9月には一旦江戸城へ戻り正式に守護代に任命すると同時に道灌を還俗させると言うので文句を言いたくても言えない。

武蔵守護代という肩書があるだけで交渉事や国人衆への出兵要請などかなりの利があるからだ。

まあそれ相応のデメリット…、関東管領である山内上杉家が武蔵守護だからその家臣扱いになるという残念な特典ではあるが、現状では利の方が大きい。


川越城の縄張りを道真と相談しつつ守護代となった後の事を話し合うが、関東管領である上杉顕定が俺を守護代に任じ何をさせたいのかが不明な為、とりあえずは川越城へ援軍を派遣しているという体裁をとる事にした。


9月になり、守護代に任命する為の使者が江戸城に来ると言う事で、照と彩、そして100人程の兵を連れて江戸城に戻り、一門衆、傘下の国人衆、重臣が居並ぶ広間で守護代の任を拝命し正式に守護代となった。

父である泰経は自分の事のように大喜びしていたし、一門衆も傘下の国人衆、重臣達も喜び使者が帰った後3日程酒宴が続いた。

最近ふと思ったんだが何かにつけて集まって酒宴を開くのがこの時代の武将の楽しみなんじゃないのかと思える。

今年も豊作で酒宴が3日続いても困りはしないんだが毎朝広間に転がっている一門衆や国人衆、重臣達を見てるともう少し節度を持って酒を飲めと言いたくなる。

そのうち泥酔して階段で足を滑らせて関係ない人まで巻き込んで落ちてどこかの異世界に転生するぞ…まったく…。

そして風魔衆の報告では太田道灌が正式に還俗し関東管領上杉顕定に拝謁し、客将の身分ながら3000人の兵を与えられ長尾景春に味方する国人衆を討伐するように命を受けたとの事だ。

元々実績があるから3000人の兵を預けられたんだろうけど劣勢をどう覆していくのか…。


因みに俺は武蔵守護代となった事で川越城に滞在する必要は無くなったが川越城の増築があるので暫くの間川越に戻り太田資常と道真と共に籠城の際どのように守るかを説明し防衛力の強化を進めている。

まだ投石器や連弩、大型のバリスタなどがある事は教えていないし鉄砲も渡していないので基本的には弓と投石、そして空堀を使った火攻めの方法などを教える。

特に火攻めに関しては反対に城が燃える恐れがあるので、空堀に面している壁は土壁にし、空堀に生えた草を定期的に刈って乾燥させ保管しておく専用の蔵も作らせた。

敵が攻めてきたら事前に乾燥させた草を空堀に敷き詰め臭水(原油)を撒いておき、敵兵が空堀に集まったら火矢を放つと言った感じだ。

その為火攻め用の空堀は深く城側はほぼ垂直に、外側は緩やかな傾斜からの急こう配にし、外側は常に背の高い草を抜き火攻めから逃げる際に逃げにくくする仕様になってる。

江戸時代にオランダから来た詰草、今でいうクローバーでもあれば植えたいんだけど無いので諦めた。

あれが斜面にビッシリ生えてると意外と滑って坂を登りにくいんだよね…。


川越城の増築と並行し、江戸城に居る際は、直轄領や一門衆、傘下の国人衆、家臣などから提出させた今年の収穫高の報告書に目を通し豊嶋家支配地域の収支を確認し今年の転封で不利益が出ていないかの確認をする。

結果としては全ての者達が不利益を被る事なく増収となっており概ね不満はないようだ。

直轄領の収穫高も上々で年貢として納められただけで米が9万石、麦などその他穀物が総計で6万石と満足のいく結果だ。

これに加えて、清酒造りを始めとした綿花栽培、菜種油、蝋燭、石鹸、養蜂等も順調で安定した金銭収入も見込める。

報告書に目を通した後、石浜城を与えた叔父の豊嶋泰明、滝野城を与えた赤塚資茂、蒲田城を与えた小具秀康を江戸城に呼び出し、各城に5千石の扶持米を与える事を伝え3城にはそれぞれの家臣とは別に扶持米で専業兵士を雇うように命令を出した。

この扶持米は3人に与えるのでは無く城に付属するものとし前線に新たな城を得た場合は扶持米と雇った兵はその城へ移動させ前線に専業兵士を常に常駐させると言う方針を説明し理解をさせる。

3人共最初はよく分かってなかった様子だったが根気強く説明し理解をして貰った。

勿論、扶持米で雇用した兵が手柄を挙げた際は俺から褒美を出すし3人が見込みのある者と判断したら引き抜いて家臣にしても良いと言っている。

5千石の扶持米があれば最低でも500人の兵が雇えるので武具を用意してやれば足軽が500人程各城に常駐する事になる。


これで前線の城が強化される。

蒲田城の小具秀康は前線じゃないけど今派遣している俺の専業兵士を引き上げさせ、新たに蒲田城で雇った兵と入れ替えさせたかったからなんだけど…。


ただ、3人共、自分達の懐は痛まないのに500人程の兵が雇えるとあってご満悦だ。

だって兵が増えるうえに見込みがある者は引き抜いて家臣にして良いんだからね。


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