2度目の婚礼

いや、この座り方ってどうなの?

俺が上座に座りそのやや少し斜め左右に照と彩が座ってる。

2人とも白無垢を着てるから俺から見たら横顔が微かに見える程度だが、どうしてこうなった?


時高が来た翌日、呼んでも居ないのに豊嶋家の一門衆が、川越城から密かに道真が江戸城にやって来た。

それだけでなく、昨日、軍事経済婚姻同盟に同意したら、船から彩が、それに続いて三浦家の主だった家臣数人が降りて来た。

来た時、船から降ろしている荷が異常に多かったのは彩の嫁入り道具だったとは…。

しかも照用の白無垢まで用意する周到さ。

今回の婚姻を知らなかったのは俺と照だけか?

最低でも父である泰経に話を通し、そこから一門衆に伝えられていたはずだ。

にもかかわらず俺に情報が来なかった。

家督を継いだがまだ父である泰経の影響力が強いという事か…。

それにしても風魔衆すら情報を掴んでいないとは、外ばかりだけじゃなく、領内の情報収集にも力を入れさせないとこれじゃ足元をすくわれかねない。


照は4歳の時白無垢着たけどまだ幼かったからよく分かって無く、物心付いた時には既に俺の嫁だったから白無垢をもう着る事は無いと諦めていたらしく、再度白無垢を来て婚礼の儀が出来る事に喜んでいるからそれはそれで良いんだけど、照以上に道真の爺さんがメッチャ喜んでるのが気になる。

カメラとかあったら婚礼の儀が終わるまでシャッターを押し続けてるタイプだ…。

まあカメラは無いが照の白無垢姿を書かせる為に絵描は連れて来たけど。


うん、なんかこの時代の絵描きが書いた人物画は微妙というかこれ本人? って感じだから家臣の中でスケッチが上手い家臣を呼び出して照と彩の白無垢姿を書かせてますよ。

筆で書く前にちゃんと鉛筆で輪郭取って完全に照と彩を知っている人が見たら一目で分かるよう精密にね。

まさか城とか城下の造りとか正確に書かせる練習をさせていた家臣がこのような所で役に立つとは…。

それにしても毎回思うんだが、婚礼の儀が終わると何故宴会が始まるんだ?

6歳になった弟の竹千代は既に船を漕いでるし…。

まあ今回照は船を漕がず飲めや歌えの宴会を楽しそうに眺めているからいいけど、そろそろ竹千代は退席させてあげて…。


結局夜遅くまで続いた宴会の翌日、江戸城の広間には酔いつぶれてそのまま寝た一門衆や三浦家の重臣達が死屍累々とも呼べる有様になっていた。

道真は朝早くに川越城に帰ったと近習の者が朝起きたら教えてくれた。

本当はもっとゆっくりして行きたいだろうに、コッソリ川越城から来たっぽいし、仕方ないか…。

それにしても三浦時高は自分の限界を知っているのか酔いつぶれる前に用意した客間で就寝したのに、父上である泰経は広間で大の字になって寝てるし…。

日頃から鎌倉以前よりの名門、名門と言っているのはどこの誰だ!!!


今回の婚礼は2人同時の上、時高も長居出来ないし俺も忙しかったりする為、形式ばった仕来りは無視し、同じ部屋で3人で寝ただけで同衾はしていない。

というか照はまだ13歳だし、彩は16歳だけど流石に照が横で寝ているのにする訳にはいかないし…。

そもそも上下を設けないと言った以上、照が16歳にならないと彩とも同衾出来ない事になるような気がする。

その辺をしっかりと言及していなかった自分が恨めしい…。

子供を作らなければ良いんだから、同衾は16歳からすると言っておけば良かった。


その後、広間で寝ている人を叩き起こし、用意した朝食を出すが、ほぼ全員が二日酔いで箸が進んでいないので、味噌汁だけ飲ませておいた。

二日酔いの朝に飲む味噌汁は美味いんだよな。

俺はほぼ酒を飲んでいないので普通の味噌汁にしか感じないが、二日酔いの時は胃に染み渡る感じがするんだよね。


朝食を済ませた後、時高と今後についての詳細を簡単に話し、当面の間はどちらかの家が攻められた際には必要に応じて即座に援軍が出す事が出るように豊嶋家は蒲田城に、三浦家は川崎に城を築きそれぞれ500人の兵を常駐させること。

人の行き来を自由にする為、多摩川を渡った所にある関の撤廃に加え往来の自由、豊嶋家からは農業改革の更なる指導者の派遣、三浦家からは操船技術の指導者の派遣という事を取り決め、その他の細かい部分は双方が使者を送り合い詰めていく事にした。

時高も三浦家の実権を握ったとはいえまだ高救派の家臣もおり長期的に不在に出来ないようで、昼過ぎには来た時同様に船団を率いて帰って行った。


事前に来るとは聞いて居たが、気軽に来た風を装って嵐を巻き起こし何事も無かったかのように帰って行く。

これが戦国時代を生きる武将の生き様なのか?

いや、多分違うだろうな…。

実際同盟は急激に所領を拡大した両家が新たに得た所領を守るためには必要だ。

とは言え三浦家にとっては旨味が少ない同盟だから、その辺は高救親子を三浦家から追い出し時高の嫡男である高虎を当主にした事へのお礼と今後、高虎と俺を義兄弟にし両家の友好を重視したと言った感じだろうな。


まだ二日酔いが抜けきらない蒲田城主、小具秀康を呼んで三浦家との同盟について話し、俺の専業兵士500人を蒲田城に派遣するので長屋の建設、訓練場の建設、盛り場の建設を命じ、当座の資金として1000貫文を渡しておく。

小具秀康は500人の専業兵士を養う兵糧なんか気にしていたが兵糧、武具は全部俺が用意するのでいざという時はその500人を小具秀康が率いて援軍に行くように伝えた所、笑顔で引き受けてくれた。


蒲田城は三浦家がどう動くか分からないうえ、荏原郡管理に世田谷城だけでは心許ないので築城させたけど、三浦家との同盟が結ばれた以上、蒲田城の小具秀康は武功を挙げる機会が減ったと思っていたらしく500人の兵を与えられ、援軍の将としてその兵を率い出陣し武功を挙げる機会が出来たと喜んでいた。


そりゃそうだよね…。

兵への給金、兵糧、武具は俺が出すんだから小具秀康は痛くも痒くもない、しかも500人が滞在するとなれば城下も多少は潤うだろうし…主に盛り場が…。


後は増水対策だな。

援軍を出そうにも多摩川が増水して渡河できないとかは避けたいし、増水した際でも船で川崎か六浦湊に上陸出来るよう船の用意もさせておこう。

増水で多摩川を渡れなかったと言う言い訳は通用するけど豊嶋家としては多摩川が増水していても援軍を出すと言う姿勢を示しておきたいし。

同盟は信頼関係が重要だしね。


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