専業兵士の編成

年が明け1472年になると父である泰経が関東管領上杉顕定の要請で五十子陣いかっこのじんへ兵を率いて出陣した。

つい数日前に母が懐妊した事が判明したばかりだと言うのに出陣とはこれが戦国か…。

とはいっても合戦がある訳ではなく、武蔵や上野の国人衆の兵を一定数配置し有事に備える為であり、古河公方が攻めて来なければ向こうで上杉顕定や上杉政真、そして他の国人衆と酒を飲み、連歌などに興じたりしている。

兵糧は関東管領家が出すがその他費用は国人衆の負担になるため、年単位で上野、武蔵の国人衆が順番に五十子陣に参陣する事になっている。

ここ数年、父が長期で五十子陣に滞在したと言う記憶は無かったので疑問に思っていたら、どうやら輿入れの件などがあり爺である長尾景信が便宜を図ってくれていたらしい。

景信の爺、中々やるな。

褒美に今度来たら照をけしかけてメッチャ煽てて持ち上げて、甘えてやろう。

まあ今年は足利成氏が古河に戻るはずだから五十子陣も騒がしくなって連歌や酒宴なんて暇はないだろうけど、史実だと大きな合戦は無いはずだから俺は内政と軍備増強に勤しもう。


内政に関しては奴隷として売られて来た人たちを受け入れて開拓地を広げているのでこのまま進めて行けば良いとして、軍備の方が大変だ。

なんせ現在600人を超えてまだ増える勢いだし。

ここで一旦個々の能力に応じて編成を行っておこう。

訓練に関しては今までと同じく一通りの事がこなせるように続けるけど、編成後はそれに追加して兵種に応じた訓練も課すことで戦闘能力UPを目指す。

尚、専業兵士達には実家の身分を持ち出すことを禁止している。

何故なら、下級武家、地侍、農家の3男、4男をはじめ奴隷だった者もおり実家の身分を持ち出し仲間に威張り散らしたりしたら纏まらなくなる為だ。

もちろん違反をした場合は罰則を設けているので今の所は特に問題は起きていない。


後は鎧などの装束だけど、見た目も良く防御性能も高い方が良いので胴丸は鉄を薄く延ばし胴丸の形にしてそれを両面加工した竹で覆ったものを量産する予定だ。

鉄を入れる事で重くはなるけど普通の胴丸よりは防御性能に勝るはずだ。

後、草摺は木で、籠手と脛当ては鉄を使ったものにし、陣笠も木を削って作ることにした。

水車の水力を使って木を削る工具はあるから陣笠なんかは簡単に量産できるし。

ただ色に関しては悩んだ、赤備えを最初考えたが確かに目立つが金がかかる事が判明したので黒で統一する事にした。

黒一色とはいえ、統一した装束であれば見栄えの良い部隊に見えるはずだ。

赤備はもっと所領が増えて兵も増えたら組織しよう…。


そして肝心の編成に関しては基本的には全員が足軽であり、弓を射る事が出来、騎乗も出来るようになっており状況に応じて兵種を替えられるが、今回は今所有している馬が200頭程は居る為、替え馬の事も考慮し騎馬隊100人、足軽隊400人、鉄砲隊100人で構成した。


騎馬隊の指揮官には武石信康を任命した。

信康は元々白子家の家臣だったが、白子朝信が農政改革担当になり合戦に行く事が無くなった為に俺の家臣になった人物で22歳と若いものの体格も良く面倒見の良い人間だ。

馬術に関しては恐らく俺の家臣の中で一番優れているので騎馬隊の指揮官にした。


足軽隊の指揮官には馬淵家定、菊池武義を任命した。

馬淵家定は元々白子家の家臣だったが信康同様に俺の家臣となった人物でクール…、いや無口だがいつも冷静な人間の為、合戦の際も冷静な判断が出来るので、戦況を分析し足軽を効果的に運用してくれるはずだ。

もう一人の、菊池武義は元は野盗の頭目だった男で風間元重の弟であり情報収集組の頭を務めている風間元秀が引き抜いて来た人材だ。

この時代には珍しく筋骨隆々な体躯を持ち、下総で国人衆の館を専門に襲撃し飢えに苦しんでいる領民に食料などを施していたという義賊的な人間だった。

ただいつも狙うのが国人衆の館という事もあり、幾重にも張り巡らせられた罠にはまり危うく討ち取られそうなところを助け出し俺への仕官を薦めたとの事だ。

初めて見た時ボディービルダー兼プロレスラーか? と思った。

実際腕力もずば抜けて強いので特注で太身の太刀と1間、大体1メートル80センチほど、太さ直径7~8センチ程の鉄棒を与えた。

流石に重すぎるかな? と思ったけど軽々と振り回しているので渡した俺本人が驚いた。

そんな菊池武義だが俺の所領を見て今まででこんなに栄えて豊かに暮らしている農民は見た事が無いと言い、いずれは豊嶋家の所領を全てこうすると伝えたら、こんな場所が多くなるならと俺の家臣となった人間だ。

豪快な性格をしているが元野盗の頭目だけあって機を見るのに優れて自らが真っ先に敵陣へ斬り込む事も厭わないので足軽隊を率いるには最適なはずだ。


そして鉄砲隊だがこちらは、弥吉改め、大泉虎吉を任命した。

大泉虎吉は元罪人で結婚予定だった家の一家全員を殺害した罪で死罪になるはずだった人間だ。

そんな人間を何故登用したかと言うと、発端は不慮の事故が発生した事に端を発する。

簡単に言うと、完成した鉄砲の試し撃ちをした際、鉄砲が暴発し鍛冶師が死んでしまったので、試し撃ちで暴発して死傷しても良い人間として死罪となる罪人に試し撃ちをさせる事にしたという経緯がある。

この罪人を使った試し撃ちで今迄に9人の罪人が死傷したが、意外と多くの人間が生き残っている。

そうしているうちに古参の罪人は鉄砲の扱いに加え射撃の腕も高くなったので、罪人の中で金銭目的の押し込み殺人や快楽で殺人をしたと思われる者を除き鉄砲隊の一員として登用した。

元々喧嘩や痴情のもつれなどで人を殺した人間でやり直せるならやり直したいと言う者達だったので、5年間給金の半分遺族に渡す事を条件に俺の一存で許したのだ。

その中で卓越した射撃技術に加え現在制作している鉄砲自体の改善点の指摘をしたり、運用法などについても提案して来たりして来たうえ、俺の考える運用法を最も理解出来ていたのが弥吉であった為、特例で名を与え大泉虎吉と名乗らせ鉄砲隊の指揮官にした。

罪人だって優秀なら登用しないといけないぐらい人材不足なんだよ。

兵は居ても将となる人間が慢性的に不足している状態だから…。


編成をし指揮官を任命した以上、後は訓練を続けながら頭角を現した者を各指揮官の補佐をすべき副将や小隊長などを任命し完全に組織化しないとな。

未来の指揮官候補も育てないと組織の発展はないし。


因みに兵士として雇用後、訓練中の怪我などで兵士を続けられない者に関しては自身の教訓を活かすべく今後採用する兵士達の訓練教官として、または計算や読み書きを教え内政官候補として育てている。

今後合戦があれば怪我をして戦えなくなる者も出て来るだろうから今のうちから第二の人生がある事を見せつけておくことで安心できる環境を整えておくことも忘れていない。

我ながら福利厚生もバッチリだ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る