さがし物をさがす物
地下街
第1話 コーヒーを飲む者
1
高層ビルが立ち並び、人や車の往来が絶えない大都会で、ほんの少しの緑が胸を張っている。美咲はコーヒーカップにお湯を注ぎながら、整った街並みをビルの六階から見下ろしていた。たとえ窓を閉め、穏やかな音楽を流していても、外を眺めればその騒がしさが音無く伝わってくる。
トントン
「すみませーん」
マドラーを掴み損ねたタイミングで、明るい声が部屋に届いてきた。
「どうぞー」
ポットの脇にカップを置き、美咲は開いた扉の方へと向かっていった。声から思い描いていた通りの若い女性だ。
「赤羽と言います」
「受付の
近くのソファーまで誘導し、二人同時に腰を下ろす。
「広い部屋ですね」
女性が辺りを見渡しながら口にした。
「メンバーが全員揃えば、この部屋もぎゅうぎゅうですよ。今は私一人なので広く感じると思いますが」
「忙しそうですね、皆さん外に出ていらっしゃるようで」
「夏休みが終わって、みんな気合入ってるんですよ。あぁそうだ、コーヒーとか飲みますか?」
「あ、いえ、大丈夫です。私コーヒー飲めなくて」
「そうなんですか、紅茶は……?」
「あ、じゃあ紅茶、いただきます」
「分かりました」
美咲は返事をして立ち上がると、また窓際へと足を進めた。先程入れたコーヒーは、まだ好調に湯気を昇らせている。
「依頼内容……もう伝えてもいいですか」
スプーンで茶葉をすくう美咲の背中を真っすぐ見つめながら女性が尋ねる。
「急がなくても全然大丈夫ですよ」
「改まった感じで依頼するのはちょっと気が引けるので……」
「紅茶淹れながらで良ければ、是非」
「では……」
女性は、んんっ、と咳払いをして一拍置いた。
「……ペットの犬を、捜してほしくて」
結局改まった感じで言ってしまっているその女性を愛らしく思いながら、美咲は茶葉が蒸れていくのをじっと待った。
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