『ネタ』

ぽふ、

第1話 チャウチャウ

道を歩くよ。歩いているよ。


ふたりで、また。


でも、きょうは、もうすぐ、おうちに着くところー。


電柱を、何本か行くと、すぐだ。


おや。


モシャモシャした毛の犬が、飼い主を、ひっぱって歩いているよ。


「ねぇ。チャウチャウちゃう?」


言ってみた。


そうして、彼が、こう答えてくれたらいいな、なんて思った。


ドキドキ。


『ちゃう。チャウチャウちゃう』


んー、そしたらねぇ、私は、こう答えるの。


『えー、チャウチャウちゃうん?』


で。


『んー・・・・・・。チャウチャウちゃうんちゃう?』


とか彼が言ってくれたらサイコー。


これは、関西弁の、私が、こどもだった頃から、みんなでネタとして、よく出てきたもの。


うまく言えるかどうか、よくやってた。


「え?」


ああ。ふつうに、何を言ったのか、わからなかったらしく聞き返してきた。むぅ。


「んーん、なんでもないー」


なんてやってたら、犬が、ちょっと寄ってきた。


ぅわお。


吠えないで、吠えないで。


クンクン、って鼻を鳴らして、靴の匂いを嗅いできた。


いやーん。それはそれで、いやぁー。


身を、よじるかたちで、逃げる。


ギュッと、彼が手を、握ってくれる。だいじょうぶだよ、って、安心させてくれる。


ああ。


飼い主さんも、申し訳なさそうに、それでいて、すこし楽しそうに、おじぎした。


にっこり。


ありがとう。


なんとなく、この、ひとときが嬉しくて。ありがとう。

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