番外編 偽勇者パーティーの転落




「明るい銀髪か……君、僕の仲間にならないかい?」


うわ言のように「赤……24」と呟くミトリにリヒトは話しかけた。


「…何よあんた。私に貢いでくれるの?」


「ハッ、これは面白い。僕に貢がせる気とは……まぁ良い。お前には良い事を教えてやる。僕の名前はリヒト・アルバリナ・シストローネ。この国の第一王子だ。そして勇者パーティーのリーダーでもある」


「それで?王子様が何か用なわけ?」


「お前のその銀髪……戦乙女のケインに似ている。実は僕は勇者パーティーの中で飛び抜けて優秀だったのだが、そのせいで他のメンバーが着いて来れなくてね。僕のことを理不尽に追い出したんだ」


当然これは事実では無いのだが、2人にとってはどうでも良い事であった。


「で?私に何して欲しいのよ」


「話が早くて助かるよ。君には戦乙女のケインとして、これから勇者パーティーの一員になって欲しい」


「私に戦いを強要するの!?冗談じゃないわ!」


「まぁ待て、そんな事しなくても勇者パーティーの箔だけで働かなくても贅沢三昧だ」


「……本当なの?」


「ああ、僕についてこれば間違いない」


こうして、ミトリは偽勇者パーティーの一員として生きて行く事になった。

ほとんどの人がその特徴だけを聞いていたので、銀髪で身長160のミトリは簡単に信用されたのだ。

普通勇者パーティーを勝手に名乗る馬鹿は存在しない。

それは神へ喧嘩を売っている事と同義になり、神によって必ずなんらかの罰が与えられるからだ。

しかし、この男は一応本当に勇者パーティーにいたのだ。

ならば、そこに新たに加入した者が勇者パーティーを名乗っても嘘ではない。

自分の中でそうやって結論ずけたミトリは笑ってその申し出を受けたのだった。




………………………………

………………

……



「あ、あのケイン様?このペンダントは私の母の形見でして………」


「だから何?それは世界を救う私に相応しいと思うんだけど?」


偽勇者パーティーに加入したミトリはケインの名を語り、我が儘の限りを尽くした。

金はケインのファンから巻き上げて、欲しいものも寄越せと言えば貰える。

そんな日々を忘れられるはずがなかった。


「リヒト様に言いつけるわよ」


「お断りします!このペンダントだけは何があっても渡せません!」


「ふーん、馬鹿な子ね。貴方達この子を痛めつけて」


ミトリは勝手についてきた取り巻きに名も知らぬ少女から形見を奪うように言った。

まだ年端も行かない娘を殴るのは流石に取り巻きも躊躇する。

しかし、ミトリに後で何を言われるか……とおもって結局その命令に従ってしまう。


「いやぁ!やめて!それは母さんの……」


ボコボコにされた少女を見てリヒトが言った。


「うん……悪く無い外見だ。まだ幼いけど将来は僕の相手をさせてやろうかな」


こうして、この少女も奴隷のように働かせられる事になるのである。


「お前……ミトリじゃないか!ふざけるな、街に悪党がいると聞いて駆けつけてみれば……なんてことをしているんだお前は!」


ここに訪れたのはミトリの家族達であった。

ミトリはまずいと思う。

今自分の正体を明かされたら、取り巻きに裏切られるかもしれない。

それを危惧して、元家族達を捕まえるように言う。


「あら、勇者パーティーの一員である私にそんな口聞いて言い訳?それと、私の名前はケイン。2度と間違えないでよね、何処の誰とも知らないおじさん」


その言葉に家族達は絶望する。自分達のミトリを追い出すと言う判断は間違っていたのだろうか?と……

取り巻き達に為す術もなく捕まった彼らは、舌を奪われて家に帰された。

当然、弱みを握られた上でだ。

これ以降ミトリの元家族は、ミトリに逆らうことができなくなってしまった。

ミトリはほんの少しの罪悪感も覚えることなく……



しかし、こんな日々が長く続くはずもない。

偽勇者パーティーは突如として終わりを告げた。

本物の勇者達が魔王を倒したのだ。

辺境の地にもその情報は届き、リヒトは捕まってしまった。


「なんでよ!今まで上手くいっていたのに!」


ミトリは己の不運を嘆いた。

リヒトが捕まったと言う事は、きっと自分達にも罰が下る。

勇者パーティーを名乗ったのだ。

その過程でやってきたことも許されることではない。

逃げなければ……


こうして、偽勇者パーティーのミトリは逃亡生活を送る事となった。

逃亡生活は厳しいもので、何処に行っても顔が割れているから、捕まってしまう。

ミトリは家族に頼ることにした。

久しぶりに家族の元へ訪れたのである。


「お父さーん!可愛い娘が帰ってきたわよ」


「…………」


「何よ、なんか喋りなさいよ……ってそうか、私が舌を切ったんだったわ。まぁ良いや、これからここで世話になるから、お姉ちゃんの部屋貰うからね」


そう言って家にあがろうとするミトリを父は叩いた。

姉2人は倒れたミトリを蹴り付け、母は髪を引っ張った。


「い、痛い!何すんのよあんた達!可愛い娘が帰ってきたってのに!」


そこで父親が紙を持ってきてペンで会話を始めた。


(お前が家族?ふざけるのも大概にしろこの外道が。今更帰ってきて何の用だ?大人しく捕まる気にでもなったのか?)


「はぁ!?私が何したって言うのよ!」


(……お前に舌を切られた。家族の信頼を壊した)


「そんなの、あんた達が上手くやってる私の正体をバラそうとしたのが悪いんでしょ!娘のためなら舌くらい切りなさいよ!」


(姉さん達は婚約していた……しかし婚約破棄されてしまったよ。もう喋れない女など嫁に迎えられんとな。お前のせいだ!こうなったのも全部お前のせいだ!)


そう言って父は涙を流し始めた。

これはまずいと思ったミトリはすぐさま逃げ出したのだった。




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