第107話 魔王の過去
〜遡ること5年前〜
適性の儀を明日に控えた男爵家の三男ガルドは心躍らせていた。
自分のスキル適性値は幾つだろうか?
オリジナルスキルはどんなだろうか?
なんにせよ、自分の将来が決まる適性の儀を今か今かと待ち続けていたのだ。
スキル適性値はB、これなら騎士としても冒険者としても成功できるだろう。
オリジナルスキルが戦闘系だったら、将来は明るいぞ……
そう思っていたのに、俺に告げられたオリジナルスキルは予想外のものだった。
『魔王』
勇者と対をなすスキルだ。
今まで魔王というのは魔物の中から突然出てくる者だと思っていたが、スキルを手に入れて初めて理解した。
「今までの魔王も、今の魔王も、これからの魔王も……全て人間のオリジナルスキルから生まれたんだ……」
鑑定結果に驚いている神父を本能的に殺した。
今自分の正体が世に知られるのは不味いと思ったからだ。
殺した神父の肉体を魔王になって使えるようになった死体操作で操り、ガルドのスキルについて口裏を合わさせる。
その夜、ガルドは父に報告した。自分のスキルについて……
「父上、俺のスキルは『豪運』でした。運のステータスが上がるようです」
「ふん…そんな事はどうでも良い。適性値はどうだったのだ!Aならばお前は伝説の騎士になれるぞ!」
ガルドの父は昔騎士になりたかった。
しかし、彼にその才能はなく、息子にその夢を託そうとしたのだ。
Bならば数いる才能のある者の1人でしか無い。
しかし、Aは別格だ。
今まで適性値Aをもって成功しなかった者などいないのだから……
この時代の覇者となる事をガルドの父は夢見ていたのだ。
「俺はBでした」
「……チッ、ならお前はもういい。あと3年したら弟のオトカリトが適性の儀をする。それでもしオトカリトが適性値Aだったらお前は出て行け」
「……はい」
ガルドは12歳にして世の中の理不尽を知る。
と同時に全てがどうでも良くなった。
隙を見せた父を神父と同じように殺して操る。
後に明らかになるのだが、ガルドは『魔王』のスキルを手に入れた瞬間、強力な炎、精神干渉、魔法と剣の融合、が使えるようになった。
彼はこの力に支配される。
「人類を殺せ……世界の支配者となれ」
ガルドは呪われたスキルによって人類の滅亡を強制されるのだった……
その後、世界を支配する為にはどうすべきか考える。
御伽噺の魔王はいつも勇者によって殺されている。
ならば自分もそうならないようにするには勇者を殺すべきだ。
だが、『魔王』のスキルの効果は複数あり、そのうちの一つが成長補正。
初めから圧倒的な力を持たされるが、成長力もまた人並み外れる。
これを考えると、このスキルは成長してはじめて勇者と張り合えるというわけだ。
勇者エレナは既に王都の騎士団に保護されて最高レベルの教育を受けながら鍛えている筈だ。なにより、王都には雷帝オルトメキナと炎帝エルファトクレフがいるから、下手に乗り込んでも捕まって終わりだ。
それなら物語のようにオーソドックスに人類を倒してやろう……
ガルドは旅に出た。
魔王として魔物の部下を作る為に……
そして、自分自身の強化のために……
暫くして、新たに部下を作ることができる『魔物創造』を獲得する。
このスキルは込めた魔力によって魔物を生み出すことが出来るスキルだ。これで手始めに3体の強力な魔物を作った。そして、彼等に強力な能力を付与していく……
魔王の力の一つに『能力付与』があり、自分のスキルや技、性質を他者に貸し出すことが出来るのだ。
それが後の四天王となる炎孤のクーデル、マニピュレイターのテクスト、魔剣王のヴィクターであった。
余談だが、ネドリアだけは野生で生きていたダークゴブリンの進化であるのでガルドから生み出されたわけでは無かったのだ。
その為、正確にはネドリアの技は使えず糸操作は見様見真似で、糸に魔力を込めて無理やり動かしている。ネドリアの様に糸ならなんでも動かせるわけでもないし、スムーズにも動かない。
それでもケインの前では使っていたのは単なるハッタリだった……
少しでもケインの油断を誘う為にだ。
こうして彼等は創造主であるガルドに従い、各地の魔物を従えていく……
出来上がったのが魔王軍。
ガルドはものの1年でここまできたのだ。
しかし、この程度の事は今までの魔王もやってきた。これではダメだ、このままでは殺される。
魔王軍を作った後にガルドが先ずしたのは情報収集であった。
いずれ自分の宿敵になるであろう勇者は早めに倒しておかねばなるまい。
そこで、来年15歳になるガルドは勇者が入学予定のエルディナ学園に入ることにした。
来年は学園で情報収集するつもりだったのだが、その時衝撃の報告がされる。
「四天王のテクスト様がやられました」
これは意外なことだった。
正直四天王は勇者が倒すだろうと思っていたのだが、もう倒せる者がいるとは……
しかも報告によると討伐した人間は僕より一つ下でエルディナ学園に入学希望だというのだ。
俄然学園に入学したくなった。
四天王の討伐を聞き、ガルドはエルディナ学園入学を決めた。
しかし、この数年魔王軍の拡大に力を入れていたせいでろくに筆記試験の点数を取れず、一浪してしまう。
本来なら先生達を操作して学園に入る事も出来たのだが、情報を集めるならむしろ勇者と同級生の方が都合が良い。
その為、大人しく浪人してガルドは次の年に入学したのだ。
一年たっぷり勉強したので、きちんと筆記試験に合格した。
だが、実技試験で驚くものを見せられる。
銀髪の少年?が教師を圧倒していたのだ。
正直ガルドから見ても対処出来るか出来ないか分からない程に速かった。
周りの人間は一撃で落としたと思っている。
少し感の鋭いやつでも5、6撃で倒したと思っているが、俺にははっきり見えた。
奴は12撃を一瞬にして打ち込んだのだ。
あの程度なら俺が受けても死なないだろうが、奴は明らかに本気を出していない。
間違いない。奴がテクストを倒したのだ。
勇者なんかよりも余程厄介な存在だと確信した。
俺はその後、その者に近寄った。
はじめこそ警戒していた様だったが、すぐに打ち解けて手の内まで晒してくれた。
ある時、興味本位でガルドはケインに質問する。
「どうして俺に、色々重要な事を教えてくれるんですか?」
「うーん……なんでだろ?……あっ!僕が遅刻しそうになった時ガルドが起こしに来てくれたからかな」
たったそれだけのことだ。
それだけの事なはずなのにケインはガルドを信頼して、生命線とも言えるスキルまでも教えてくれた。
ガルドにとって、ケインや勇者、エネマやクリフと過ごす日々は単なる情報収集の一貫でしかない。
でも、裏切っている事に罪悪感を覚えたのはガルドの本心が『魔王』に反発していたからたもしれない………
ガルドはどんどん迷っていく。
今まで友達らしい友達もおらず、初めて一緒にいるだけで楽しくやれた相手だったから……
真剣に魔王討伐を目指しているケイン達を裏切っても良いのだろうか?
しかし、魔王軍も作り、たくさん人を殺して今更後に引けない。
否、スキルが引かせてくれない。
ガルドはエレナを操ろうとするが、精神に耐性があるのか支配することは出来なかった。
思考に影響を与えてケインと敵対する様に仕向けたが、それも無駄に終わった。
そうしてガルドは仲を深めていく事を怖く思い、みんなの前から消える事を選んだのだった。
出来ればケイン達には自分が魔王だと気付かれないままに死んでほしい。
それか自分が魔王であるとバレる前に死にたい。
しかし、スキルが自殺をさせてくれない。
このまま旅を続けたら、このパーティーならいつか魔王の元まで到達する。
その時に俺の正体がバレると思うと胸が苦しい。
俺はYSKでネドリアに殺された事にして魔王城に帰る事にした。
「後どれくらいしたらこの街を制覇できるだろうか……」
「ネドリア、お前に命令をしに来た」
「!魔王様……いつの間に。何なりとご命令を」
「では、率直に言うが俺と限りなく見た目が似た人間を探してくれ。最低でも髪色と身長は同じやつを頼む。そして原型が分からないくらいにボロボロにして俺の前に差し出せ」
「……その死体をどうするのか伺っても?」
「…これより勇者パーティーを脱退する。その為に我が死んだ事にするのだ。さぁ、頼むぞ」
それからガルドは魔王城で自分の強化を続ける。
ケインとエレナ、クリフに負けられない……
魔王軍としてあちこちで活動をする様にもなった。
その度に人を殺して、殺した数だけ薄れていく罪悪感。
相反する気持ちの片方だけが無くなっていくのは自分の半分が失われていく様で、怖かった。
俺は魔王としてケイン達を殺す。
彼女達は何も知らずに死んでいってほしい。
そう願って、魔王城にて彼等の来訪を待った。
その頃にはもう理性などほとんど残ってはいなかったが………
これが魔王ガルドによって語られた彼の人生であった。
『勇者』というスキルは所持者に勇気を与えてくれる。
しかし『魔王』はそれと対照的に所持者の心を少しずつ汚していき、判断力を奪い、最後にはただの暴れる魔物になるのだ。
今いる魔物というのは、基本的に昔の魔王が作った者達の子孫……
つまり彼等も元を辿れば人間だったのだ。
その事実にケイン達は吐きそうになる。
今まで平然と殺していた相手は人間となんら変わらない存在であったのだ………
「さあ、思い出話もこれくらいで良いっすよね?もう待ちきれないんです。始めましょう……殺し合いを!」
「ガルド……その剣を握ったらもう後戻りは出来ないぞ。今ならまだやり直せる……この手をとってくれないか?」
「……散々人類に迷惑をかけた俺が今更謝罪?……出来るわけないでしょ!大体…そんな事したら今まで死んでいった魔王軍の者達にも顔向けできない。ケインさん?ここまで来たら俺はそんな中途半端な結末は嫌です。どちらかが死ぬまでの戦い…それじゃなきゃダメなんです!」
「ガルド……そうだな。僕は一度お前が死んだと思っている。どうせもう一度殺すならこの手で殺してやるよ!」
こうして始まった。
小さな街から始まった少女の魔王討伐の冒険。
その最後の戦いが!
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