第26話 崩壊する廃坑の中で
魔力障壁というバリアを展開し、アリシアの矢による射撃を無力化するピオニエーレ。
しかし、強固な守りで身を固めているが攻勢に転じることができず、近接戦を挑もうとするミューアの接近を阻むこともできない。
「そのまま矢で攻撃を続けろ、アリシア! トドメはアタシが刺す!」
魔弾による牽制が無くなった今、ミューアは自由に動ける。
ノブルに譲ってもらった白銀の剣を携え、アリシアの援護を受けながら急速にピオニエーレに駆けていく。
「いくら魔力障壁でも、これだけ攻撃を受け続ければもたないな!」
「くっ!」
勢いよく剣を振り下ろし、叩き割るかのような要領で魔力障壁に斬撃を繰り出した。
互いの魔力が乗った技のぶつかり合いによって四方に光が飛ぶ。その光にミューアもピオニエーレも体を焦がしてしまうのではないかと思える程で、アリシアは目を細めながらも更なる追撃を試みる。
「ミューアさんを助けられる! 今の私なら!」
黄金の魔弓から再び放たれた矢はミューアを迂回するようにして飛翔し、魔力障壁に直撃した。
「やられた!?」
ミューアとアリシアの強烈な攻撃による許容量を超えるダメージで、魔力障壁にヒビが入って盛大に砕け散る。
これで高い防御力を誇っていた防壁は消え去り、ピオニエーレは完全に無防備状態となったのだ。
「なにっ!? パワーダウンですと!?」
杖による魔弾でミューアを撃とうとしたが、しかし魔力が不足していた。
「そりゃオマエ、魔力を使いすぎなんだよ! あんだけボカスカ魔弾だの魔力障壁だのを連発していればさ!」
「チィ!」
「最初に戦った時は強敵かとも思えたけど、こうも魔力コントロールが雑だとはね。さては戦いがヘタだね?」
「バカにしてッ…!」
ピオニエーレは杖を破棄して、背中に背負っていた大剣を咄嗟に構える。その大剣でミューアの剣を弾き返してみせたものの、魔力が充分ではないために威力が伴わない。
「これである意味安心したよ」
「なに…?」
「たとえアンタがエルフの雷を手に入れたとしても、技量の伴わないアンタでは有効に使うことはできない。つまりだね、アンタはエルフ族長の器でもなんでもないってことだし、脅威には成り得ないってね!」
「下賤なエルフが、よくもホザきましたね! エルフの雷さえわたしの物になれば全ては覆るのです!」
「そういう幻想や妄想は大概にしろ!」
剣を下段に構えて突進するミューア。魔力の少ないピオニエーレなら、もうミューア一人でも押し切ることが可能だ。
勝機を感じるミューアであったが、
「なんとっ!?」
突如として地面が揺れて、廃坑が崩壊しはじめた。天井となっていた土砂や岩石がボロボロと崩れ、三人のエルフの近くに落ちてくる。
「地震か!? いや、違うな……テメェの魔弾の爆発による衝撃で崩れたのか…!」
坑道のような不安定な地形の場所において、何度も爆発を引き起こしていれば当然起こり得る現象だ。衝撃波と爆圧が影響を及ぼし、この密閉された閉鎖空間が形状を保つのを困難にさせたのである。
「ふははははは!! 戦いがヘタという言葉は訂正していただく!」
「ハァ?」
「これは、わたしの策略の内なのですよ。アナタ方二人をココで生き埋めにして確実に殺すというね!」
「ウソを言うな! たまたま起きた事じゃねぇか!」
「ふっふっふ。先手を打ったという事を理解できない頭の悪いエルフなんですね~アナタは」
「マジでムカつく…!!!」
キレ気味のミューアであるが、ピオニエーレに近づこうにも落下物のせいで行く手を阻まれてしまう。このままでは本当に生き埋めになってしまうだろう。
「それでは皆さん、さようなら。わたしは一足先に失礼させてもらいますね」
「あっ、おい! 待てい!!」
ほくそ笑むピオニエーレは大きなカバンを肩に下げて逃げ出していく。せっかく追い詰めたのに、これではまたしても逃亡を許してしまう。
「逃がしません!」
落下してきた大きな岩を避けたアリシアが魔弓を構え、出口に向かうピオニエーレをロックオンする。
そして、足止めをするべく一撃を繰り出す。
「また小賢しい矢を…! ですが、当たらなければなんというコトはありませんよ!」
背中から迫る矢を見て舌打ちしつつも、ピオニエーレはギリギリのところで大剣を用いて弾いてみせた。
得意げな表情で敵の攻撃を無力化したものの、
「あっ! しまった!?」
弾かれた矢が四散し、その魔力の残滓がピオニエーレのカバンの持ち手部分に直撃して千切れ、肩から地面にドサッと落ちてしまった。
カバン自体は比較的小さいものの、中には何か重い物が入っているらしい。
「くっ…ここは仕方ありません。これは諦めましょう」
拾おうとした瞬間、アリシアが追撃の構えを見せていることに気がつき、ピオニエーレは仕方なく出口へ急いだ。このまま無理に拾ってもアリシアに殺されるか、崩れる廃坑の下敷きになって潰される結末を迎える可能性が高い。
「アリシア、アタシ達も逃げるよ!」
「あ、はい。あのカバンが気になりますが……」
「ソイツはアタシに任せろ。アリシアはとにかく出口へ!」
動体視力の卓越したミューアは落下物を巧みに躱しながらジャンプし、更にスライディングの要領で地面に横たえられているカバンに近づく。
「よく分からんけど、ピオニエーレの持っていた物なら回収して損は無さそうだ」
剣を背負ってフリーになった手でカバンを抱え、先に出口で待っていたアリシアと合流する。
「怪我はないか、アリシア?」
「はい、問題ありません。ヤツを追いましょう!」
「おうよ!」
そこから階段を駆けて地上へと戻り、直後、廃坑は轟音と共に完全に崩壊してしまった。あと少し遅かったらペチャンコになっていただろう。
「危ない危ない…それより、ピオニエーレはドコだ!?」
「えっと…あ、飛んでますよ!」
「飛んでいる!?」
「デモン・イーグルに乗っているんです!」
アリシアの指さす先、デモン・イーグルがバサッと羽ばたく。
どうやら魔弓によるダメージで死亡していなかったらしく、地下でアリシア達が戦っていた間に傷を回復してしまっていたのだ。
その背にはピオニエーレが乗っていて、二人のエルフを見下していた。
「わたしの勝ちですね、お二人さん!」
「いや、勝ってないだろうが! アタシ達はまだ生きているぞ!」
「うるさいですね。総合的に考えればわたしの勝ちなんですよ!」
「アイツのプライドの高さは鬱陶しいな……」
敗走しているピオニエーレであるも、負けを認めずに自分の勝利だと譲らない。その頑固さは高いプライドからくるものであり、彼女の傲慢で他者を見下す態度を如実に表していた。
「でも落としてしまえば…!」
ミューア達の言い争いを傍らで聞いていたアリシアは、自分の武器であれば撃ち落とせると魔弓で狙う。
こういう時、近接戦主体のミューアでは対処しようがないが、アリシアであれば上空の敵でも狙撃できる。
「あの弓使いめ! 妙ちきりんな技を使えるからと、わたしに勝とうなど思い上がるのは許せませんな!」
拳を握りながらイライラを表現するピオニエーレ。とはいえ分が悪いと言わざるを得ないだろう。何故なら、特殊な遠距離攻撃をするアリシアに対抗しようにも、ピオニエーレは杖を放棄してしまったために応戦射撃ができないのだ。
デモン・イーグルで接近戦を仕掛ける事も可能だが、しかしピオニエーレを乗せたままでは本来の機動性は発揮できない。もし本気でデモン・イーグルが暴れれば、上に乗る者など一瞬で振り落とされてしまうのがオチだ。
「次会った時は必ず叩き潰しますからな! さらば!!」
負け惜しみのように吐き捨て、ピオニエーレはデモン・イーグルを操り飛び去る。
その背後からアリシアの矢が追尾していくが、有効射的距離の外へと逃げられてしまった。魔力の矢は霧散して空に散る。
「ごめんなさい…落とせませんでした……」
「なぁに、謝ることはないよ。追い払えたんだから、お手柄さ」
落ち込むアリシアの頭を撫で、ミューアは奪ったカバンを地面に置く。
「コイツの中身はっ、と……お、これは」
「魔結晶ですね」
なんと、カバンの中にはいくつかの魔結晶が仕舞われていた。ピオニエーレはアリシア達が来る前に収穫して持ち帰ろうとしていたようだ。
「しかも、アタシが求めていた高純度の魔結晶だよ。コレなら秘薬を作る素材にできる」
「ピオニエーレも秘薬の素材を探しに来たと言っていましたもんね。いろいろ大変でしたけど、当初の目的は達成できましたね」
「ああ、やったな!」
もともとココの廃坑には高純度の魔結晶を求めて訪れたわけで、宿敵との遭遇は偶発的なイレギュラーだ。
二人は拳をコツンと突き合せて目的達成を喜び、馬を待たせている休憩地点へと引き返していくのであった。
-続く-
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