第8話
「ああ、おいしい。これも、おいしいわ。あれも、全部、完璧な味付けだわ! アーサー、あなたの料理はいつ食べてもおいしいわね!」
「ありがとう。頑張って作った甲斐があったよ」
お風呂から出た私はというと、アーサーが作った料理を堪能していた。
普通の量ではなく、軽く十人前以上ある。
しかし、アーサーは私と違って料理の才能があるので、様々なジャンルの料理を用意してくれた。
いつもカレーばかり食べている私からすると、この才能は羨ましい限りだった。
「ふぅ、ごちそうさま。ありがとう、アーサー。助けてくれた上に、食事まで用意してくれて。なんだか申し訳ないわ」
「いいんだよ。そろそろカロリーが不足している頃だっただろう? 僕も君が食べているところを見るのは好きだから、気にすることはないよ」
アーサーとは久しぶりだったので、いろいろな話をした。
彼との会話は楽しくて、心地よかった。
そんな会話も一段落して、アーサーからある提案をされた。
「結界を一度解いてみるというのは、どうかな?」
「え……」
私は彼の提案に驚いた。
そんなこと、考えたこともなかった。
「この国での君への仕打ちは、酷いものだよ。身を削って国を守っているのに、そんな君を悪女呼ばわりだ。悪質な嫌がらせだって、まだ続いているのだろう? それに、今回は殿下の追放宣言まで……。こんなの、おかしいよ。君はこの国の人を守るために、それでも我慢して結界を維持しようと頑張っているけれど、まずは自分を守ることも考えた方がいい」
「それは……」
確かに、彼の言う通りだと思った。
私は皆にどんなに嫌われようと、どんな仕打ちを受けようと、それでも彼らを守ろうと努めてきた。
しかし、何度もひどい仕打ちに耐えるのも、限界を迎えていることも確かである。
だから、私は彼の提案に乗ろうと思った。
私は悪女ではなく、本当は聖女なのだと、この国のみんなにわかってもらうために、あえて一度結界を解く。
そうすれば、皆も私の言葉を信じるだろう。
そのためには一度、彼らには地獄を見てもらわないといけない。
*
(※デイヴィス殿下視点)
「いったい、なにをしている! まだあの悪女は見つからないのか!?」
「申し訳ございません。現在、全兵をあげて捜索中であります。見つかるのは、時間の問題かと……」
「くそっ! 悪女の癖に、私から逃げるとは生意気な……」
「それと、悪女とは関係ないのですが、もう一つ報告があります」
「なんだ?」
「王宮の側にある小さな町で、正体不明の獣が出没したそうです。田畑を荒らし、人に襲い掛かったと、目撃者は話しています」
「正体不明の獣? ふん、くだらん。今年は不作だったから、どうせ、王宮からの補助金目当てに嘘をついているだけだろう。その件は、無視していい。今は何よりも、あの悪女の捜索に全力を尽くせ」
しかし、この時の判断を、私は後悔することになるのだった……。
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