調べて!ヨミpedia!~5分で読める雑学ノベル~

まっちゃりうむ

第0pedia はじめまして

「このページを開いていただき、ありがとうございます。突然ですが、1つだけ、お願いがあります。」


落ち着いた口調の女性が、画面越しにあなたに問いかける。

あなたが瞬きをしたとたんに、声の主は目の前に現れた。


プラチナブロンドの腰まで伸びたロングヘアー、ふわっと膨らんだボリューム感のある毛先、桜色の瞳、両手で抱えられた辞書のような分厚い本。

彼女の周囲は真っ白な空間のみで、比較対象がないため不明確だが、恐らく声色に似合った小さめの身長に見える。

彼女は抱えている本を開き、ページをなぞるように指を動かす。


「これから始まるお話は、雑学風ノベルです。出典は明記するとややこしくなると思われますので記載しませんが、ネットで調べ、取りまとめたものですので、どこかに記載されている諸説とは多少齟齬があるかもしれません。」


彼女は動かしていた指を止め、少し微笑みながら、あなたの目をまっすぐと見つめる。


「その上で『自分で調べるほどでもないけれど、知っていると面白い雑学』を提供できればなと思っておりますので、よければまずは数話だけでも、読んでいっていただけると、嬉しいです。」


彼女は本を閉じ、あなたに背を向け、ゆっくりと離れてゆく。

彼女の姿がどんどん小さくなってゆく――。






よみちゃんおかえりー!どこ行ってたの?」


元気な声の少女が、先ほどの分厚い本を抱えた少女を出迎える。

肩にかからないくらいのブロンドのミディアムボブヘアー、まるで本物のエメラルドのようなキラキラした瞳。

身長はおそらく先ほどの少女と同じくらいか、少し高いくらいか。


よみちゃん』と呼ばれた少女は、何もない真っ白な空間から現れた。


「ただいま戻りました。知依ちよさん。ここでの暮らしを始める前に、少しご挨拶に伺ってました。」


知依ちよさん』と呼ばれた少女は、何も理解できていない様子で、大きな目をぱちくりさせている。

少ししてから、合点がいったように手を打った。


「よくわかんないけど、はじめましてのご挨拶だね!わたしもしておかないと!」

「そうですね。私も自己紹介はしていなかったので、軽くしておきましょうか。」


よみはふふっと微笑みながら一呼吸置き、自己紹介を始めた。


「それでは私から。名前は初訊 詠ういき よみと申します。自身のことについて説明することもないので、この世界の設定を少しだけ。場所は皆さんがよく知っている、ネットの中のどこか。今はまだ何もない真っ白な空間ですが、大体なんでも叶うというか、都合よくいくようになっているそうです。そして、バーチャルな空間ですが、皆さんとほぼ同じように生活をしています。まずは、ここが拠点になるということなので、過ごしやすい空間を用意してくださると聞いているのですが…」


よみがそう話していると、2人のいる空間が広めのワンルームになり、部屋の中央にこたつとみかんが現れた。


よみちゃん!こんなことできるの!?スゴイね!!」


知依ちよが目をキラキラさせている。なぜか頭にみかんを乗せていた。

それを見たよみが、少し吹き出しそうになりながら続けた。


「私の力ではないですけどね。…とまあこんな感じで、人が生活している『リアル』とは異なる空間ですが、人と同じように日々楽しく生活しております。」


こんな感じですかね。と言わんばかりによみはふっと一息つき、知依ちよに目配せした。

それに気づいた知依ちよが、元気よく手を挙げる。


「次はわたしだね!名前は鳩衣子 知依くえす ちよです!好きな食べ物はメロンパン!最近気になっていることは、よみちゃんの本の中身!」

「あ、これタブレットです。何でもすぐ調べられるので、便利ですよ。」


よみは持っている分厚い本を広げて知依ちよに見せた。

外見は百科事典だが中は確かにタブレットになっている。

どうやって折りたたまれているのかは謎。


それを本だと思っていた知依ちよは、ぽかんと口を開けたまま固まっている。

少ししてから彼女は、はっとしながら「ヨミpedia」と小さくつぶやいた。

それを聞いたよみは、不思議そうに首をかしげる。


よみちゃんのwik〇pediaだからヨミpedia!」

「それも参考にはしますし、面白いとは思いますが――よみの百科事典(Encyclopedia)ということであれば、ヨミpediaでよいと思います。」

「百科事典って、『えんさいくろぺでぃあ』っていうんだぁ…よみちゃんは物知りだね!」


よみは優しく微笑み、この話はおしまいと言わんばかりに軽く咳払いした。


「自己紹介はこれくらいにしておいて、そろそろ一区切りに―」

「ちょっと待って!!」


勢いよくそう言いながら、こたつに乗り出した知依ちよよみの言葉を遮る。

知依ちよの頭から転げ落ちるみかんをキャッチし、よみは「なんでしょうか?」と聞き返した。


「…初めて会ったときの挨拶ってどうして『はじめまして』って言うのかな?」

「どうして…?どうしてなんでしょう…気になりますね…。」


我慢ならない様子でそう言う、よみが持っている本を、知依ちよはズバッと指差し、唱えるように叫んだ。


「調べて!ヨミpedia!」


その声に触発されたように、よみはヨミpediaを開き、ものすごい勢いで操作し始めた。

一方、知依ちよは彼女が、こうなるのはいつものことと言わんばかりに、落ち着いてみかんを食べている。


数分もかからないうちに調べ終えた様子で、一呼吸置いてから、すらすらと説明を始めた。


「語源は『はじめてお目にかかります』ですが、省略すると『はじめて』になってしまうため、敬意を表す『ます』を添えて『はじめまして』になったとか。ちなみに漢字は『初』でも『始』でも正解みたいです。様々な辞書でどちらも用いられているそうなので。」

「ほえー。勉強になりました!」

「簡単なことですが、あまり調べようと思ったことはなかったですね。これからもこのような形で、気になったことを調べ、どんどん紹介していこうと思っておりますので、どうぞよろしくお願いします。」


よみは、ぱたんと本を閉じ、どこかに向かって、にっこりと微笑みながらそう言った。

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