第11話 マイ・ピュア・レディ-11


 晴時々曇。


 雲が風で流され薄日が射してきて暑く感じられてきた。朝練を終えて汗まみれの首にタオルを巻いて教室に入ると、いつもより賑やかな様子に驚いた。まわりを見回しながら自分の席に近づき、美智代たちが嬌声を上げているのを見て、覗き込んだ。

「どうしたの?」

「あ、カヨちゃん、おはよ。これこれ。見て!」

差し出されたのは校内新聞の号外だった。一面トップの文字に目を奪われた。

『人気投票結果発表!』

加代子はそのまま食い入るようにランキングに見入った。

『男子1位 五十嵐 風人 3年A組

   2位 江川 純   2年A組

   3位 崎森 勇人  3年A組

   4位 大河内 秀夫 2年A組

   5位 緑川 直人  2年B組』

五十嵐の名前はやはり一番上にあった。安心し、納得もしたが、やはりどこか違和感があった。

「ほら、カヨちゃん、女子の方見てごらん」

美智代に言われて女子の順位に目を向けた。

『女子1位 野上 麗子  3年A組

   2位 緑川 由理子 3年A組

   3位 葵 貴美  2年C組

   4位 三島 百合子 3年A組

   5位 緑川 由美子 2年B組』

唖然として見る加代子の腕を掴みながら美智代は言った。

「すごいね、カヨちゃんのお姉さん。成績もいいし、人気もあるんだ」

その言葉に小さく頷くだけだった。

 ―――どうして、こんなに、違うんだろう……。

 愕然としたまま百合子の名前を見つめた。まわりでは口々に評論が述べられる。


「やっぱり、五十嵐さんが一番だったね」

「でも、A組が多いね」

「だって、A組は階級が違うもん」

「三年だけじゃない、成績順のクラス分けって」

「じゃあ、二年の大河内さんって、バカなの?」

「なに言ってるのよ、この人、生徒会長じゃない」

「あ、そうか」

「それに、サッカー部のエースよ」

「そうなの?文代、チェックきびしいッ!」

「ここに書いてあるの。でも、緑川さんって、あの緑川直樹さんの一族なのね」

「妹弟みんなこの学校なのね。頭のいい家系ってイヤミね」

「そうそう、こっちは精一杯でやっとついていけるくらいなのに」

「でも、野上先輩とか葵先輩とか勉強もできて、クラブも上手くて、美人で人気もあって、イヤミよ」

「それは、コニちゃんの、ヒ・ガ・ミ」

「なによ、自分だってそう思ってるくせに」

「でも、そう思うと、クラブで名前売れてないのに投票されてるカヨちゃんのお姉さんってすごいわね」

「うんうん。何回か会ったけど、いい人だよ。ああいう人だと、五十嵐さんの彼女でも納得できるな」

「なに、それ!」

「知らないの?カヨちゃんのお姉さんと五十嵐先輩って、つき合ってるのよ」

「うそぉ。ホント、カヨちゃん?」


 腕を掴まれて加代子は我に返った。何を言われたかわからないままに生返事で頷くと、嬌声が上がった。


「ほらね。やっぱり、Aクラス同士だもんね。特権階級よ」


 ―――……違う。


「貴族様、ってとこね」


 ―――違う。


「あたしたちとは身分が違いすぎるわ」


 「そんなこと、ない」

 口を撞いた言葉にまわりの視線が集まった。加代子は誰を見るともなく言った。

「そんなこと、ない」


「なに、カヨちゃん?」

「なにが?」


「違う…」

そう呟くと加代子は教室を飛び出した。


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